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じじ様ばば様の家庭訪問

side 悠 「ん···そう、分かった。迷子にならないように、ちゃんと電話に出られるようにしといてくれよ。それじゃあ、楽しみにしてるから。」 そう言って電話を切る。 嬉しそうだった祖父の声にフッと笑いが溢れた。 「おじいさん達、何時ごろになりそうなんですか?」 隣で電話をしているのを聞いていた蒼牙が、嬉しそうに聞いてくる。 「到着は5時頃だって。夕食、楽しみにしてるってさ。」 そう答えると蒼牙はクスッと笑った。 「と言っても、俺が作る訳じゃ無いんですけどね。」 「だな。でも、楽しみにしてるみたいだからよろしく頼むよ。」 「了解です。俺も楽しみです。」 そう言って微笑む蒼牙に俺も笑って返した。 先日カナが担当していた雑誌『M. natural::』が発売され、蒼牙の店は忙しくなった。 予想はしていたが蒼牙個人に対する取材や勧誘が頻繁にある中、当の本人は飄々としていて。 どうやらその手の取材を受けたら『辞めます』とオーナーにハッキリと伝えたらしく、最近は少しずつ連絡も減ってきているらしい。 『別に、芸能関係に興味ないから。周りに注目されるのって煩わしいだけでしょ』 以前、スイッチの入った蒼牙がそう話していた。 外出していてもスカウトされることが多い蒼牙にとって『注目』=『煩わしさ』になるのだと、内藤くんが聞いたら怒りそうな意見につい笑ってしまった。 美形には美形なりの悩みがあるらしい···と変に納得しつつ、蒼牙の帰宅時間が変わらないことに安心している。 別に···蒼牙が有名になるのは構わないが、それで一緒に過ごす時間が減るのは耐えられない。 そんなことを伝えるつもりはないが、それが本心だ。 そんな中、数日前祖父から電話が掛かってきて俺を驚かせた。 『はるくん、そうくんはいつの間にか芸能人になったんじゃのう。』 その一言に飲んでいたコーヒーを思わず吹き出しそうになり、盛大に噎せた。   どうやら、どうやってかは知らないが蒼牙が雑誌に載ったことを知った祖父母は、それを『これはうちの婿じゃ』とご近所に言いふらして回ったらしく。 その話の流れで蒼牙の店に来てみたくなったらしい。 もうどこから突っ込めば良いのか分からない話の流れに頭を抱えたが、祖父母が上京してくることは素直に嬉しかった。 日曜日は蒼牙も休みだし、土曜から泊まりにくれば良いと伝えると二人ともとても喜んでくれた。 そうして明日、新幹線でこちらに向かう祖父母を駅まで迎えに行く。 日曜日はどこに連れていってあげようかと計画を練る俺を、蒼牙が後ろからギュッと抱き締めてきた。 「悠さん、嬉しそう。」 「ん、せっかくだから楽しんで欲しいよ。」 そう言う蒼牙の声も嬉しそうで、祖父母と仲良くしてくれることがありがたかったー。 「東京は人が多いのう···」 駅前のカフェに入り、移動で疲れているだろう祖父母と休憩をとった。 「そうだね。俺も人混みは得意じゃないよ。」 コーヒーを飲みながら答えれば、隣に座っていた祖母が声を掛けてきた。 「はるくん、今日はそうくんは仕事かい?」 「ん、レストランで待っててくれてる。晩御飯食べたら一緒に帰ろう。蒼牙も二人に会えるの楽しみにしてたよ。」 「なんか悪いね。安いホテルに泊まれば良かったのに。」 遠慮がちにそう言う祖母に、「いらないよ、遠慮なんて。」と笑った。 「そうくんに会うのも久しぶりだから、今日は良いもん持ってきたんよ。」 「良いもの?」 ニコニコと笑う祖母に聞き返すが、「ばあさん、それはそうくんに渡すもんじゃから。はるくんは見たらいかん。」と祖父が祖母の肩を叩いて止めてきた。 「なに、すごく気になるんだけど···」 満面笑顔の二人に苦笑しつつ、腕時計を確認する。 『予約入れときましたから、6時半に来てくださいね』 今朝、出勤前に言っていた蒼牙の言葉を思いだす。 わざわざ予約を入れてくれたことに礼を言うと『おじいちゃんもおばあちゃんも、俺の大切な家族ですから。』とフワリと笑ってくれた。 その言葉が俺を喜ばせるための上部だけの言葉ではないことが単純に嬉しい。 ···そろそろ行くか。 机の上の伝票を手に取ると、祖父母に声を掛けて立ち上がった。 「お腹空いただろ。少し早いけど、そろそろ行こうか。」 「おお、楽しみじゃ。」 嬉しそうな二人に自然と笑顔が溢れた。 そんな俺を見て何を思ったのか祖父がニヤニヤとした笑顔を向けてきた。 「はるくんはそうくんに早く会いたいじゃろうからなぁ。」 「···っ、違うから!」 「おじいさん、はるくん達は新婚さんなんですから、そういうもんですよ。私らもそうでしたよ。」 「そうじゃった、そうじゃった。」 「だから違うって!」 カラカラと笑う二人に突っ込むも、全く聞いている様子はなく。 これ···レストランに連れていって大丈夫か···? 一抹の不安を感じなから俺はレジへと向かった。

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