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じじ様ばば様の家庭訪問4
「それじゃあ、じいちゃん達の布団はそっちの部屋に敷いておいたから。ゆっくり休んで。」
悠さんが部屋を指差しながらそう言えば、おじいちゃんがニヤニヤと笑った。
「すまんのう。二人の愛の巣にじじばばがジャマをして。」
「またそういうことを!」
「なんじゃ、違うのか?」
「ッ、それは、」
「はるくん、『夫婦』を照れちゃいかんというのに。」
「ばあちゃんまで···もういいから、早く寝て。疲れただろ。」
「夫婦ってのはやっぱり否定せんのじゃのう。」
「じいちゃん!もう、俺は寝るから!」
·····おもしろい。
さっきから繰り広げられる悠さんとおじいちゃん達とのやり取りが面白くて、俺はニコニコとその様子を眺めている。
否定することもできず、かといって認めるのも恥ずかしいらしい悠さんは、顔を赤くしたまま逃げるように寝室へと向かって行った。
「····おやすみ、じいちゃん、ばあちゃん。」
それでも扉を閉める前に二人を振り返り、微笑みながらそう告げるのが可愛い···。
「おやすみ、はるくん。」
二人もニコニコと返すのを聞いて、悠さんは扉を閉めた。
「そうくんも、今日はありがとうなぁ。一緒に寝るんじゃろ?はよう行ってやれ。」
「はい、でもお二人が先にどうぞ。」
そう言って微笑めば、おばあちゃんが「そうじゃ!」と急に大きな声を出した。
「どうかしましたか?おばあちゃん」
「忘れるところじゃった。そうくんに渡したい物があってね···」
そう言っておばあちゃんは自分の鞄の中をゴソゴソと探し始めた。
「そうそう、はるくんには見せんようにと思ってたら忘れるところじゃったのう。」
カラカラと笑うおじいちゃんに、おばあちゃんは「はい、おじいさん。」と小さな封筒を渡した。
「これをな、そうくんにあげたくて持ってきたんじゃ。きっと見たことないじゃろうと思っての。」
ニコニコと俺にその封筒を手渡してくるおじいちゃん。その横ではおばあちゃんも嬉しそうに笑っていて。
「何ですか?いったい。···開けてみても?」
受け取った封筒を手に訊ねると、「もちろんじゃ。」と頷いている。
いったい何だろう···手紙、とも違うみたいだし··
少しワクワクしながら僅かな厚みのあるそれを開き中身を取り出す。
そしてそれを確認した途端に俺は固まった。
「おじいちゃん、おばあちゃん···これ、本当にもらって良いんですか?」
自分の声が嬉しくて笑っているのを自覚しつつ、おじいちゃん達を見つめた。
「ええよ、ええよ。家にはまだいっぱいあるしのう。どうじゃ、かっこええし可愛いじゃろ?」
「はい···!」
俺の手の中には数枚の写真が。
それは全て子供時代の悠さんの写真だった。
五歳くらいから高校くらいまでの悠さん。
畑でおじいちゃんの手伝いをしている写真。
ご馳走を前に嬉しそうに笑っている写真。
ミミズを突きつけられて嫌そうな顔をしている写真。
朔弥さんらしき男の子(女の子みたいだけど)と一緒にスイカを食べている写真。
大きな犬に抱きつき眠っている写真。
···ヤバイ、メチャメチャ可愛い!それにカッコいい!!
中でも、夏祭りに行くのか浴衣を着て笑っている中学生くらいの写真からは目が離せなかった。
今の悠さんよりも華奢な体つき···
夏休みの子供らしく日に焼け、照れたように笑うその姿···
これは···本気でヤバイ。
なに、このドキドキ感···
今、この年齢のこの姿の悠さんが目の前にいたら···
····
········
············いやいや、ダメだから!犯罪だから!
「そうくん、そうくん。帰ってきてくれんか···おーい···そうくーん···」
片手で口を覆い、ガン見していた俺をおじいちゃんが呼んだ。
「···ッ、ごめんなさい!ちょっと、トリップしてました!」
アタフタとおじいちゃん達を見つめれば、「予想以上の反応じゃのう。」とやや呆れたように笑われた。
「本当にありがとうございます。宝物にします!」
「喜んでもらえて何よりじゃ。今度遊びに来たときには、もっと違う写真を見せてやるからの。」
イタズラっぽく笑うとおじいちゃんは立ち上がった。
「さて、そうくんに土産も渡せたし、儂らも寝るかの。明日は帰らにゃならんし。」
そう言われておばあちゃんを見れば、眠そうにあくびをしていて。
「はい。おばあちゃんも、本当にありがとう。···お休みなさい。」
「おやすみね、そうくん。」
そう言って二人は部屋へと入っていく。
静かになったリビングで、俺はもう一度写真を見つめた。
そこには幸せそうに笑っている子供の頃の悠さんがいて、二人に本当に愛されているのだと感じることができた。
「···じいちゃん達と何を話してたんだ?」
リビングを簡単に片付け寝室へ入ると、悠さんが横になったまま聞いてきた。
「えっと···お土産もらいました。」
ベッドに潜り込みながらそう答えれば、「みやげ?饅頭の他にか?」と俺を見上げてくる。
「はい。」
「············」
何かを考えている様子の悠さんの暖かい身体を抱き寄せた。
そうすると悠さんもモゾッと動き、収まりの良い位置になるとホウ···と息を吐くのが分かる。
この瞬間がたまらなく愛しい。
俺の腕の中で安らいでくれる···この瞬間が。
髪に鼻を埋め息を吸い込むと、同じように大きく息をしていた悠さんがボソッと呟いた。
「···いつもと香りが違う。」
「銭湯に行きましたから。悠さんはいつもと同じ···俺の大好きな香りです。」
そう言って頭に口付けると、悠さんがグイッと向きを変えてきた。
そうして向かい合わせになるとそのまま俺の肩を掴み上向かせ、のし掛かってくる。
「···悠さん?」
思わぬ行動に見下ろしてくる顔をソッと撫でた。
「お前、どうして今月が結婚記念日って知ってたんだ?」
頬を撫でていた俺の手をとり、その指先にチュッ···とキスをされる。
それだけの行為が俺の欲に火をつけると分かっているだろうに···。
「···前、おじいちゃんの畑を手伝った時に聞きました。悠さんの誕生日と同じ月だったから···だから覚えてました。」
じっと俺を見つめてくる悠さんに微笑みかけその顔を撫でる。耳を擽るように柔らかく摘まめば、「ンッ···」と色っぽい声が落ちてきた。
「そうか···ありがとうな。···二人とも本当に喜んでたから···だから、お前がもらった写真は取り上げないでやるよ。」
「え、」
ニッと笑いながらそう言われ思わず言葉に詰まった。
···なんで写真って分かったんだ?
「やっぱり···じいちゃん達が考えそうなことだ。いったいどんな写真をもらったのか気になるけど···見たら取り上げたくなるから、だから見ない。」
俺の額に口づけながらクスッと笑うその様子につられて笑った。
「良かった。せっかくもらったのに、取り上げられたら悲しいですから。」
チュッ、チュッ···と顔にキスを繰り返す悠さんを、下から抱き締める。
向こうの部屋にはおじいちゃん達が居るのに、悠さんがこうして誘ってくれるのに驚いているが···こんな可愛いことをされて嬉しくない訳がない。
「悠さん···」
「ンッ、···蒼牙···フッ、」
悠さんの頭を引き寄せ、その甘い唇に吸い付く。
名前を呼ぶその声も愛しくて、口付けたまま身体を反転させて悠さんを組み敷いた。
「あ···待て、ンッ··そう、が····」
チュッと音を響かせて唇を離しまた口付ける。
そうして深く口付けようと僅かに離したところで、細く長い指が遮ってきた。
「何ですか···?まさかとは思うけど···」
「その『まさか』だよ。二人が居るのに、これ以上するわけないだろ···」
「えー·····」
クスッと笑う悠さんに思わず不満タラタラな声を上げた。
「悠さんから誘ってきたくせに···酷いです。」
額を合わせ目を見つめれば、その瞳が困ったように歪んだ。
「それは···悪かったよ。」
「うー···でも、仕方ないから我慢します···」
「ん、ごめんな···でも、」
大人しく身体を退かそうとすれば、悠さんがギュッと抱き締めてきた。
「···キスはしたい。···ダメか?」
「····ッ!」
首を傾げる悠さんの仕草と言葉に、身体がカッと熱くなる。
「蒼牙、ンンッ!」
「···チュッ、ほんと···どうしてそんなに可愛いかなぁ···」
チュッ、クチュ···
舌を絡めとり深く口付ける。
「ハッ··、ダメじゃないです。たくさん、キスしましょう···」
「····蒼牙··ん、」
キスの合間に囁けば悠さんはフワリと微笑んだ。
その微笑みは本当に綺麗で。
···あの写真に向けた笑顔とは違う、俺にしか見せない微笑みだ。
「大好きです、悠さん···」
「···知ってるよ。」
そう言って首に巻き付けてきた腕に引き寄せられ、俺は何度交わしても飽きることのない悠さんとのキスにのめり込んでいった。
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