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12月15日夜2(微)
「うん、うまい。」
「本当ですか?良かった。」
ケーキを一口食べ呟けば、蒼牙は嬉しそうに笑った。
甘すぎないケーキは食べやすく、蒼牙が作ってくれたと思うと顔が綻ぶ。
昔、帰りが遅くなるときには母親がケーキを買って帰ってきてくれた。
それを朔弥と二人で食べるのが楽しみだった。
でもこれは、あの時食べたケーキよりも何倍も美味い。
「蒼牙は食べないのか?」
さっきから俺が食べるのを嬉しそうに見ているだけで、蒼牙は食べようとしない。
ケーキを指差しながら訊ねればフワリと笑い口を開いた。
「食べますよ。でも、悠さんが美味しそうに食べてくれるの嬉しいから。見てから食べます。」
「っ、何言ってんだ。」
優しく微笑まれ、何となくいたたまれなくて視線を反らした。
「『うまい』って言ってもらえて良かった。練習した甲斐があります。」
「練習?」
一口大にしたケーキを頬張ったところでそう呟くのが聞こえ蒼牙に視線を戻すと、そこにははにかんだ表情があって。
「はい。実は···」
照れたように笑うと蒼牙は話始めた。
何度か帰りが遅くなったのは、ケーキの作り方を教わっていたからだということ。
そのお礼に接客をして、更に遅くなったこと。
『外川さん』という人物のこと。
「それで、今度飲みにおいでって誘われて···悠さん?」
俺がジッと見つめているのを不思議に思ったのか、話の途中で蒼牙は首を傾げた。
コイツは今俺がどれだけ嬉しいか分かっていないのだろうな。
俺のために、仕事の後で疲れているだろうにそんなことをしていたなんて···今日だけではなく、何日も前から頑張ってくれていたのか。
本当に、なんて優しくていい男なのだろう。
蒼牙に触れたい···押さえていた欲望が一気に沸き上がり、フォークを皿に置いた。
「悠さん?どうかしました···ん、」
側にいた蒼牙の頭を引き寄せその形のよい唇に自分のそれを重ねた。
チュッと音を響かせ僅かに唇を離せば、驚いたような表情で俺を見つめる瞳と視線が絡まる。
「なんて顔してる。」
ニッと笑えば蒼牙は顔を赤くさせながら俺を抱き締めてきた。
「だって···まだケーキ食べ終わってないです···」
耳元に聞こえる心地よい声。
腰に回された腕にキュッと力を込められ、密着する身体からは蒼牙の体温が伝わってくる。
「だな。だから···」
顔を上げ、瞳を見つめながら言葉を続けた。
「ケーキ、蒼牙にも食べさせてやるよ。」
「え?」
瞳を丸くさせた蒼牙にクスっと笑い、ケーキの乗った皿に手を伸ばした。
そうして苺を摘まみ半分かじると、そのまま蒼牙に口付けていく。
クチュ····
「···ん、」
自分の口から僅かに洩れた声がやけに甘い。
舌を使って苺を蒼牙の口の中に押し込めば、舌先が触れ合い熱を拾う。
チュッ···と唇を離し頬を撫でれば、蒼牙が苺を咀嚼する感触が指先に伝わってきた。
「···な、美味しいだろ?」
「ん···はい。でも、もっと食べたいです。」
苺を飲み込み甘えたように言うのに笑って見せると、頬から後頭部へと指先を滑らせた。
「良いよ。好きなだけ···お前にやる。」
髪を束ねていたゴムをスルリとほどくと半分になった苺にもう一度手を伸ばしていったー。
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