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X'mas前

(内藤くん目線) 12月23日、祝日。 明日はクリスマスイブというこの忙しい時期に、朝からうちの店は大変なことになっている。 「はい、どうぞ。ああ、···綺麗なネイルだね。とてもよく似合ってる。」 「はい···!あ、ありがとうございます!」 「ご注文はお決まりですか?···まだ?分かった、じゃあもう少ししたらまた来るから。ゆっくり決めて。」 「·····ありがとう!」 「お水のお代わりは如何ですか?···ん、動かないで、肩にゴミがついてる···はい、とれた。大丈夫、綺麗になったよ。」 「ッッッッッ!キャーー!」 ······· ·········· ··············誰だ、あれ。 見た目は蒼牙だけど実は別人なんじゃなかろうか。 だっておかしい。 絶対におかしい!! 『似合ってる』とか『綺麗』とか。別に蒼牙が言っているのを初めて聞いた訳じゃないけど! 俺の知っている蒼牙はあんなのじゃないはずだ! 朝からずっとあんな感じで、オーダーを取りに行っては、そこから悲鳴が上がっている。 しかも女性客のみならず、男性客にまで流し目で接し、口調もいつもの丁寧なものではなく碎けたしゃべりだ。 どうしたんだ、いったい!? 何で今日はタラシ蒼牙になってるんだ!? 「おい!ちょっと蒼牙!」 「なに?」 キッチン前に戻ってきた蒼牙の腕を掴み、小声で問い詰める。 いつもと全く雰囲気の違うその様子に少し怯みそうになるのは許して欲しい。 「お前、今日おかしいぞ。どうしたんだよ?」 「何が?···普通だよ。」 首を傾げると蒼牙は男らしくフッと笑った。 そんな表情は見たことなくて、蒼牙の笑顔に免疫がついてきている俺でも思わずドキッとした。 「っ、だからそういう態度がだよ!何だよそのムダなタラシ具合は。」 ついつい赤面しがちな顔をひとつ叩き蒼牙を睨む。 「へえ···内藤って、けっこう可愛い顔立ちしてるんだな。」 「はあぁぁぁあ?」 睨んだまでは良いが、蒼牙にずいっと顔を覗き込まれ···思わず1歩後ずさりながらすっとんきょうな声を上げた。 こいつ、まっっったく人の話を聞いてねえな! 「なに、その変な声。もう行くよ。お客さん待ってるから。」 そう言って蒼牙はクスクス笑うとクルリと背中を向けた。 「おい!蒼牙、まだ話は終わってない!」 すたすたと歩いていくその後ろ姿に声を掛けるが「また後で聞くよ。」と手を振りながら蒼牙は行ってしまった。 ····ダメだ。 あのまま放っといたら、何だか取り返しのつかないことになる気がする! こんな時にはもうあの人を頼るしかない! 「すいません!ちょっと休憩もらいます!」   俺達のやり取りを見ていた同僚に頭を下げ、俺はスタッフルームに走った。 「頼むぞ、内藤!」 思わぬ声援を受け苦笑してしまう。 皆も同じ気持ちだったのだろう、俺を咎める人は誰もいなかった。

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