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X'mas前2

side 悠 クリスマス前の祝日とあって店内に流れる音楽から装飾、そして販売員の衣装までクリスマス一色。 様々な食材が並び美味しそうな香りが漂う中、青果コーナーに足を運びリンゴを手に取った。 ···アップルパイに使うリンゴってどれだ? この間は俺の誕生日に蒼牙がケーキを作ってくれた。 料理はそれほど得意ではないくせに俺のために練習を重ね、想いを込めて作ってくれたケーキは本当に美味しくて。 あんなに美味しくて幸せな気持ちになれるケーキは初めてだった。 だから今度は俺がアイツに返してやりたい。 あの時感じた幸せを蒼牙にも感じて欲しい。 そう考えて思い付いたのが『アップルパイ』だった。 本来クリスマスケーキなら生クリームの乗ったものが主流なんだろうけど。 誕生日ケーキで大変な目にあったことを考えると、そこは避けた方が良いような気がする。 思い出しただけでも顔が熱くなるあの日の情事は、出来ることなら記憶から消してしまいたいほど恥ずかしい。 あの失態を繰り返さない為にも、今回は生クリームを使用しなくても作れる『アップルパイ』を焼くことにした。 ···ま、どれでも作れるだろ。 そうして色々な種類のリンゴが並ぶ中から適当に何個か選び、他の買い物と一緒にカゴに入れるとレジへと向かった。 ··············· マンションに帰り時計を確認すればもう昼過ぎで。 昼食は何にしようかと考えていると、机の上に置いていたスマホが着信を告げた。 ···誰だ?休みの日に。 そう思いながら確認した画面には『内藤くん』の文字。 「もしもし?」 『悠さん、蒼牙が変なんです!助けて下さい!』 「···は?」 どうしたのだろうかと不思議に思いながら電話に出た途端、内藤くんの悲痛な声が俺に助けを求めてきたー。 「悠さん!」 蒼牙の勤めるレストランの入り口で、内藤くんが俺を出迎えてくれた。 『とにかく、蒼牙がおかしいんです!お願いですから店に来てください!』 そう泣きつかれ、急いでマンションを出た。 まるで救世主でも現れたかのように俺のもとに駆け寄った内藤くんは、どこか憔悴しているようにも見える。 「どうかしたのか?蒼牙がおかしいって、いったい何があったんだ?」 「俺が話すよりも見たほうがわかります。来てください。」 疲れたように笑い、内藤くんは俺を店内へと誘った。 「···ほら、あそこです。」 「キャー‼ありがとう~秋山さん!」 指差された方向に目を向けるのと、高い悲鳴を聴くのとは同時で。 「どういたしまして。何かあったらすぐに来るから、遠慮なく言って。」 視線の先には女性客の足元に膝をつき、落としたらしいハンカチを手渡す蒼牙の姿があった。 「君みたいに綺麗なハンカチだね。」 「ぶはっ!ごほっ、ごほっ···!」 そう言って微笑む蒼牙にまたもや黄色い悲鳴があがる一方で、俺は盛大に吹いた。 ·······なんだ、あれは。 まるでホストか何かのように甘い台詞を吐いていく蒼牙を、俺は噎せながら見つめた。 「ね?おかしいでしょう?朝からずっとああなんです。無駄にタラシこむから、このままだと変な誤解生みそうで····俺、自分の店で刃傷沙汰なんてごめんです。」 そう言って「だから助けて下さい!」と頭を下げられても、俺だって困る。 助けろと言ったって俺にどうしろと言うのか。 「えーっと···帰っても良いか?」 「ダメです!」 「···だよな。」 逃げようとすれば内藤くんに強く却下されため息を吐いた。 仕方ない···とりあえず蒼牙を呼ぼう。 そう考えて口を開きかけると···背後から伸びてきた腕に身体が捕らわれた。 「いらっしゃい、悠」 「·····っ!」 同時に耳元に囁かれる低い声と吐息に、俺は一瞬で固まってしまった。 「どうしたの、俺に会いに来てくれた?」 「っ、そ、蒼牙!」 「「キャーーー!」」 嬉しそうにそう告げながら耳にチュッとキスを落とされ、擽ったいその感触にビクッと身体が跳ねた。 目の前の内藤くんが口をパクパクとさせるのが見え、背後からは黄色い悲鳴が上がる。 「おま、何して···離せ、人が見てる!」 「やだ。」 慌てて蒼牙の腕の中から抜け出そうと暴れるが、ますます強く抱き締められ逃げることができない。 なんだ、この状況は!? まるで子供がお気に入りのぬいぐるみをギューギューと抱き締めるように、俺のことを離そうとしない蒼牙。 「蒼牙、とりあえず悠さん離せ。な?な?」 「内藤うるさい。」 「ひどっ!」 おろおろとする内藤くんには見向きもせず答える蒼牙に、俺は「ん?」と違和感を感じた。 「蒼牙、離せ。」 「やだ。」 「『やだ』じゃない。いいから手を離せ。」 「·······はい。」 離させようともがいていた手を止め少し強めに告げると、渋々と蒼牙は俺から離れた。 「じっとしてろよ。」 自由になった身体を動かし向かい合うと、俺は蒼牙にソッと手を伸ばした。 ····やっぱり。 そうして僅かに頬を紅潮させた蒼牙の額に手のひらをあて、俺は呆れてしまった。 「···悠?」 「蒼牙···お前、すごい熱。」 「え?」 「はあぁぁぁあ?」 俺の言葉にキョトンとする蒼牙と、変な声を上げる内藤くん。 手のひらに伝わる尋常じゃない体温と、よく見れば少し潤んだ蒼牙の蒼い瞳に、俺は大きくため息を吐いたー。

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