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X'mas
side 蒼牙
「····っ、蒼牙···待てって、ん、」
マンションの玄関先で、悠さんを扉に押さえつけてその柔らかい唇を奪う。
抵抗しようと肩を押さえる手を絡めとり扉に縫い付けると、また深く口付けていった。
くちゅ、チュッ···チュク···
吐息さえ奪うように何度も重ね、ゆっくりと唇を離した。
「···急に、どうした····?」
頬を染め俺を見上げてくるその瞳は濡れていて、その表情を見ただけで下半身にズクッと重い刺激が走った。
「だって、我慢してたんです。悠さんと待ち合わせて、食事をして···ここに戻ってくるまでに俺がどれたけ貴方に触れたかったか分かりますか?」
口の端に口付けなから囁けばピクッと身体を震わせる。
そうして僅かに顔をずらすと、今度は悠さんの方から口付けてくれた。
「···んっ、そんなの、俺も同じだ。」
キスの合間に呟かれる言葉に、身体がカッと熱くなった。
本当にこの人はどこまで俺に甘いのだろうか。
熱が出て2日。
悠さんの看病のおかげでスッキリと目が覚め、若干の恐れを抱きながら出勤した。
覚えていないが、悠さんから聞いた話ではかなりおかしな態度で仕事していたらしいし···
一体、どんな反応が待っているか想像がつかなかった。
「良かった、熱下がったんだな!!」
ホッとしたように同僚に迎え入れられ、同時に「もう熱が出そうな時は早々に帰ってくれよ」と苦笑された。
よほど酷かったんだな···
ハハハ···と渇いた笑いを溢せば背中をバンバンと叩かれた。
振り向けば満面の笑顔の内藤くん。
「良かった、本当に良かった」と繰り返し叩いてくるのは痛かったが、一番迷惑を掛けたのも事実で。
「ありがとうね。本当に助かったよ」
素直に礼を伝えれば「気にすんな!」と親指を立てられた。
X'masとあって忙しい一日をバタバタと過ごす。
仕事が終われば悠さんと食事の約束をしている。
それを励みに迷惑を掛けてしまった分を取り返すように働いた。
カップル客や家族客の暖かくも微笑ましい雰囲気に、自然と笑みが溢れた。
『X'mas』というイベントに浮かれる気持ちは今まで特に持たなかったが、これから悠さんと会えると思うとソワソワとしてしまって。
「「お疲れ様でした!」」
内藤くんと共に着替えを終わらせるとスタッフルームから急ぎ足で出ていく。
ナオと待ち合わせているのだろう様子に「じゃあね、ナオによろしく」と手を上げれば、「おう!悠さんによろしく!」と嬉しそうに返された。
そうして時間ギリギリに待ち合わせ場所に向かえば、人混みの中でもすぐに見つけられる愛しい人の姿。
寒そうに首をすくめ、周りのイルミネーションを見つめる様子に目を奪われる。
どう見ても男性なのに···どうしてあんなに綺麗なんだろう。
通りすぎる人がチラッと視線を寄越しては過ぎ去っていくのを、自慢のような、逆に誰にも見せたくないような···不思議な気分になる。
「お疲れ様。」
「はい。悠さんも、お疲れ様です。」
やがて俺に気づき手を上げる悠さんに近づけば、穏やかな笑顔で迎えられたー。
繰り返し口付ける俺を咎めるでもなく、細くて大きな手が優しく後頭部を撫でる。
俺を見つけてフワリと微笑んだ柔らかい表情。
食事中に楽しそうに話す声。
『寒いな』と呟いたその白い吐息。
悠さんが動くたびに漂う甘く芳醇な血の香り。
それら全てが愛しくて、大切で···そして欲しくて。
こうしてマンションに帰ってくるなり激しく求めてしまうほどに触れたくて仕方なかった。
「はっ···悠さん、」
キスをしながら細い腰を抱き寄せ、そのまま抱き上げようと力を込める。
すると「待てって、蒼牙。」と腕を捕まれた。
「···ダメですか?」
顔を見つめながら訊ねれば、困ったように笑われた。
「ダメっていうか···お前と一緒に食べたいものがある。」
「食べたいもの?」
そう言うと悠さんは俺の身体を押し戻し、横をすり抜けた。
「ん。とりあえず着替えて、それから用意するから。ソファに座って待ってろ。」
「····はい。」
ニッと笑うその表情にドキッとしてしまう。
自信ありげな、大人の顔。
···この顔が一番好きなんだよな。
そんな風に思いながら悠さんに続いてリビングへと入っていった。
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