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countdown kiss
side 悠
「もう少しで年が明けますね。」
大晦日。
近所の神社に初詣に行こうと、蒼牙と二人で出掛けた。
小さく呟かれた言葉に視線を向けた先、白い息を吐き出しながら蒼牙が空を見上げる。
つられて上を見上げれば、都会の明かりに負けながらも僅かに輝く星が見えた。
「そうだな。なんか、色々ありすぎて···あっという間の一年だったな。」
クスクス笑いながら答えれば「俺もです。」と蒼牙も笑った。
本当に、色々なことがあった。
蒼牙と出会い、心惹かれて···焦がれるように身体を重ね、想いをさらに募らせた。
一緒に暮らすようになり、プロポーズされ···思い返せば恥ずかしくなるようなことばかりだけど、幸せ過ぎて。
「今年は···俺にとって人生で一番幸せな年だったよ。」
ボソッと呟けば、「俺もです。」とさっきと同じ返事が返ってくる。
その声にチラリと視線を向ければ、蒼牙は穏やかな顔をしていて···それが無性に愛しく思えた。
「蒼牙」
「何ですか?」
「···暗いからな。ほら、」
「っ、はい。」
差し出した手を嬉しそうに蒼牙が握り返してくる。
回りにはたくさんの参拝客がいるし、屋台や提灯の明かりもある。
離れた場所にいる他人の表情だって確認出来るくらい明るいが、『暗いから』と理由をつけた。
本当は理由なんて何でもよくて、単純に蒼牙と手を繋ぎたいと···そう思った。
「人も多くて、はぐれたらいけませんから。」
照れたように笑う蒼牙の表情が、俺の心をギュッと掴む。
こいつは···こういうところが狡いと思う。
普段は人前だろうと平気でキスを仕掛けてくるくせに。
たまに俺から仕掛けるとこうして照れたりなんかするから。
「···悠さん?」
「何でもないよ。」
思わず見惚れていれば蒼牙が声を掛けてくる。
慌てて視線を反らし顔を隠した。
そうしてザワザワと賑やかな人混みの中を蒼牙と二人並んで歩く。
···繋いだ手は身体の間で隠し、周りから見えないようにして。
「あと2分!」
やがてどこからともなく聞こえてきた他人の声に、いよいよ年が明けるのだと実感する。
「···悠さん、こっち。」
「え、ちょっと、蒼牙?」
カウントダウンが始まりお祭りムードが一気に深まったその場から、蒼牙が急に手を引っ張り足早に進んでいく。
「なに、どうした···?」
向かっていた場所とは違う方向に進む蒼牙に声をかけるが、何も答えてはくれなくて。
屋台の間をすり抜け、神社の燈籠が並ぶ一角へと連れていかれる。
電気もなく暗いそこに到着すると、蒼牙は俺を石燈籠の影に押し込み···ギュッと抱き締めてきた。
「あと、15秒」
「え、」
自分の腕時計を確認しながらそう呟くと、蒼牙は「10、9、8、···」とカウントダウンを始めた。
「3、2····」
「んっ、」
『1』は聞くことが出来なかった。
クイッと顎を持ち上げられ、そのまま深く唇を塞がれる。
『明けましておめでとうございます!』
少し離れた場所からは年明けを告げる声が聞こえる。
チュッ···くちゅ、チュッ···
「んっ、そ、が···ふっ、」
「···悠さん···ん、」
甘く吸い上げられた舌に蒼牙の熱い舌が絡まる。
柔らかく抱き締めていた腕がゆっくりと移動し後頭部と腰に回る。
そのまま強く抱き寄せられ、覆い被さるようにして与えられる熱い口付け。
その優しくも荒々しい口付けに身体が喜びに震えるのが自分でも分かる。
チュッ、ちゅく···チュッ··
やがて音を響かせながらゆっくりと解放された唇は、ジンジンと痺れるようで。
「明けましておめでとうございます、悠さん··」
綺麗に笑ってそう言う蒼牙に微笑んで見せた。
「明けましておめでとう、蒼牙。今年もよろしくな。」
「はい。」
ソッと頬に触れれば、本当に幸せそうに蒼牙が笑うから。
「ん···」
その微笑みに引き寄せられるように、もう一度···今度は俺から口付けていった。
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