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子犬と蒼牙と癒し

side 悠 「分かったよ。じゃあ、今度の休みに連れていくから。...いや、蒼牙は仕事だから俺だけで行くよ。ん、楽しみにしてる。じゃあ、また。」 祖父との電話を切り予定の確認をする。 ...良かった。何とか連れていけそうだ。 スケジュール帳に書き込みながらほっと一息吐く。 膝の上で丸まっている茶色い固まりに「もう数日はここだぞ。」と声をかければ、モゾリと体を揺らし見上げてきた。 先日桐嶋くんから聞いていた『子犬』は、現在俺達のマンションにいる。 桐嶋くんと話をしたとき『犬を飼いたい』と祖父が言っていたことを思い出し、早速相談すると写真を見た祖父からOKをもらうことができた。 そうして桜庭くんのマンションに子犬を引き取りに行き、今その子犬はここにいる。 本当はペット禁止だが、マンションの管理人に頼んで数日の間は預かっても良いと許可を貰った。 「じいちゃんちに行くまではお前はうちの子だからな。」 柔らかい毛並みを撫でながらそう言えば、子犬は俺の手をペロペロと舐めてきた。 黒くて丸い瞳が俺を見つめてくる。 ......可愛い。 昔から犬は好きだったが実家では飼うことがなかったし、こんな風に子犬と触れあうことはあまりなかった。 思わず子犬を持ち上げ、その柔らかい腹に顔に当ててみる。 洗ったばかりでプニプニとした感触は、どんな癒しグッズよりも癒される気がした。 ヤバイ....これはちょっとクセになるな。 そんなことを考えながら腹や首回りの毛並みに顔を埋めていると、クスクスと笑う声が聞こえてきた。 「何してるんですか?悠さん」 「...っ、蒼牙」 コーヒーを両手にキッチンから戻ってきた蒼牙が、隣に座り「どーぞ」と渡してくれる。 それにお礼を言って受けとりながら、何となく見られた恥ずかしさから苦笑した。 「来週末じいちゃんの家に連れていくよ。それまではうちで預かるから、ごめんな。」 「それは全然構いませんよ...このこ可愛いし。」 膝の上の子犬に手を伸ばし、蒼牙はクシャクシャッと撫でた。 「うん、可愛いな。すごく癒される。」 蒼牙に撫でられて気持ち良さそうに目を閉じる子犬をもう一度持ち上げ、その小さな頬にキスをした。 そのまま「ん~、柔らかい。」と顔をグリグリと押し付けていると、子犬の手が頭に掛かった。 小さなその足も可愛くて、プニプニと肉球を指で押さえてみる。 .....可愛すぎる。 弛む顔を隠すことなく子犬と戯れていると、隣から視線を感じた。 「.................」 「.....蒼牙?」 「.................」 「.....どうかしたか?」 「.......別に、何でもないです。」 少し拗ねたような声で返事をしてくる蒼牙にクスッと笑いが溢れる。 「ほら、蒼牙も撫でるか?」 拗ねている理由を察しながら、わざと子犬を差し出す。 「......分かっててやってるでしょ?」 そう言って蒼牙は俺の手から子犬をヒョイと取り上げると、足元に下ろした。 そのままゴロンと俺の膝の上に頭を乗せると、チラッと見上げてくる。 「ワンコばかりじゃなくて、俺のことも構ってください。」 そう言って俺の手を取り自分の頭に持っていく。   「.....犬を触った手だけど?」 笑いながらその柔らかい髪にソッと触れれば、「気にしません。」と気持ち良さそうに目を閉じた。 「....クゥーン」 俺の膝の上に上ろうと、足元で子犬がピョンピョンと跳ねる。 その姿が可愛いくて抱き上げてやろうかと思えば、蒼牙が腕を伸ばして子犬を持ち上げた。 「今は俺の番。というか、ここは俺の場所。」 そう語りかけると、蒼牙は自分の腹の上に子犬を置いた。 「お前はここで我慢してなさい。」 子犬の頭を撫でながらまた瞳を閉じる蒼牙が可笑しい。 「...お前も犬と張り合うなよ。」 思わず呆れたように笑いながら呟けば「子犬だろうとここは譲りません。」と返ってきた。 蒼牙の手の中で暫くはウゴウゴとしていた子犬は、やがて諦めたように大人しくなっている。 その様子に微笑みながら形のよい蒼牙の頭を撫でた。 .....うん、この時間が一番癒されるな。 こうして蒼牙とゆっくりと過ごす時間が一番心地よい。 日々の忙しさから離れ、愛しい恋人と過ごす時間。 穏やかなこの時間がいつまでも続けば良い。 蒼牙の腹の上で気持ち良さそうに丸まる子犬と、俺の膝の上で満足げに瞳を閉じる蒼牙。 その眺めに愛しさを感じながら蒼牙の頭を撫で続けた。

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