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アニマルパニック

side 悠 「....ちょっと待て。なんだ?その格好は。」 仕事から帰り玄関を開けたところで固まった。 目の前には笑顔の蒼牙が立っていて。 「おかえりなさい。...どうですか?似合いますか?」 「ただいま.....え、それ、答えないとダメか?」 質問に質問で返すくらいには動揺していた。 玄関先で「お疲れさまでした。」と労いながら抱き締めてこようとする蒼牙を制し、まじまじとその姿を見る。 「....まぁ、悪くはない...面白いから。」 「えー...何ですか、その回答。」 少し不満そうな顔をするのにクスクスと笑いかけ、ションボリとした犬のような様子の蒼牙の横をすり抜けてリビングに向かう。 まぁ、今のコイツはウサギだが.... 当然のようについてくる蒼牙の姿を見てフッと笑いが溢れた。 「...で?なんだ、その格好は。」 ネクタイを抜きながら振り向けば、蒼牙はニッコリと笑った。 「はい、ウサギです。」 「んなことは見れば分かるよ。」 依然としてニコニコと笑顔を向けてくるのに苦笑してしまう。 目の前には大きなウサギの耳を頭に着けた男が一人。 いくら蒼牙が美形とはいえ、こんなにでかい男がウサギの耳を着けているのはやはり面白い。 「実は去年の暮れの忘年会で使う予定だったらしいんですけど、出番がなかったみたいで。」 頭から耳を外しながら蒼牙がクスクスと笑う。 「で、せっかくだから貰ってきました。」 俺を見つめニッと笑うその様子に嫌な予感がする。 「....せっかくだからの意味が分からない。」 「え~....『せっかく』は『せっかく』でしょ?」 そう言いながら俺の頭にウサギの耳を着けようとする蒼牙から慌てて後ずさった。 「ふざけんな、俺は絶対に着けないからな!」 「ふざけてませんよ?至極真剣です。」 ついつい荒げてしまった口調に、蒼牙は真面目に返してきた。 あまりにも堂々と言ってのけたセリフに頭が痛くなる。 「ちょっと待て...真剣に考えて、俺にそのウサギ耳を着けさせようと思っているのなら、お前は本物のバカだ。」 「どこがですか?好きな人が可愛い格好するのを見てみたいって思うのは男の性でしょう?」 「はぁあ?ふざけんな!それが男の性だと堂々と言い放つお前の神経が分からない!」 「でも悠さんだって、さっき悪くないって言ったじゃないですか!?」 「その後で『面白いから』とも言っただろーが!だいたい、そういうものは女の子が着けるから可愛いんだろ!」 「悠さんこそ何言ってるんですか!女の子が着けよーがどーしようが、そんなのどうでもいいです!俺は悠さんが着けているところが見たいんです!」 「....っ、恥ずかしいこと言ってのけるな!この、変態が!!」 「変態上等!俺は悠さんがウサギになっているところが見たい変態なんです!!」 「開き直るな!阿呆!!」 あまりにもバカらしい言い合いを続けお互いの息がはぁはぁと上がる。 まったく、コイツはいったい何を考えているのか。 俺がウサギ耳を着けたところで可愛いわけがない。 むしろ気持ち悪いに決まってるだろ。 その後、暫くは下らない押し問答が続いたが...悪いが言い合いで俺が蒼牙に負けたことは一度もない。 「ねえ、悠さ...」 「絶対に着けないからな。」 「う...、はい....」 食事の最中、深夜のニュースを見ている間、そして寝室のベッドの中。 ことあるごとに「どうしてもダメですか?」と聞いてくる蒼牙の言葉を遮る。 バカだバカだとは思っていたが、まさかここまでバカだったとは.... 「絶対に可愛いのに....」 俺を抱き締めたままボソッと呟く蒼牙の言葉は無視して、俺は眠りについたー。 「.....ちょっと待て。なんだ、その格好は。」 翌日。 今日は早く帰れたと、喜びながら玄関の扉を開けたところで...またしても固まる羽目に。 「お帰りなさいませ、悠さん。お疲れさまでした。」 優雅に一礼してニッコリと微笑む蒼牙に、思わず赤面してしまう。 蒼牙の仕事着....黒いギャルソンの制服に身を包み丁寧な仕草で出迎えてくれるその様子は、俺が好きな仕事モードの姿で。 「ふふっ、これならどうですか?」 イタズラが成功した子供のような表情で笑う蒼牙の頭には、可愛らしいウサギの耳がついていた。

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