3 / 17

第3話 眠れない夜

 兄の腕の中擦り寄ると、髪を優しく撫でられ涙が零れそうになる。幸せすぎるからこその不安。  お兄ちゃん、本当にずっと僕のこと好きでいてくれる?  髪を撫でる手が少しずつゆっくりになり、やがて典夫が静かな寝息を立て始める。  知矢は最近不眠症気味だ。至近距離で兄の端整な寝顔を見つめているとなぜだかマイナスの感情ばかりに支配されてしまう。  こんなふうに腕枕をして、こんなふうに綺麗な寝顔をみせて、お兄ちゃんは何人の女の人と時を共にしたのだろう?  胸がズキリと痛む。  知矢より四つ年上で、その上このルックスだ。兄の女性遍歴はきっと少なくないだろう。  なのに、知矢は何もかもが典夫が初めての相手で。そのこと自体――兄しか知らないこと――は良かったとも思うのだけれども、反面すごく嫉妬もする。  眠れない夜、思考はぐるぐる回り、やはり根深い不安へと着地してしまう。  お兄ちゃんが僕以外を見つめたらどうしよう……?  知矢は不安の渦に呑み込まれてしまいそうになり、兄の体に密着した。  大丈夫。僕とお兄ちゃんは大丈夫。  必死にそう言い聞かせ、きつく目を閉じるのだった。

ともだちにシェアしよう!