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第11話 弟の悩み

         *  それから一か月後、知矢が学校で六時間目の授業を受けている時、スマホがピコンと鳴った。  兄の典夫からのラインだ。  知矢は先生に見つからないようにスマホを盗み見る。 『バイトのシフトが変わって時間ができたからデートしよう!(^^)!』  そんなメッセージに一気に心が浮き立ち、顔が綻ぶ。  住んでる家は同じだからしょっちゅう顔を合わせているのだけれど、それでもこんなふうにデートの誘いが来るのはうれしい。  お兄ちゃんがバイトのときは僕はいつも留守番だからなー。  両親は兄に対しては放任で、バイトをしたいと言い出したときもすぐに許可が出た。  一方、知矢に対してはすごく過保護だ。それは知矢が体が丈夫ではないからなのだが、二人の結婚(?)資金が貯めたい身としてはほんとは自身もバイトをしたい。  そんなことをつらつら考えながら返事のラインスタンプを送った。  ちなみに両親に「切れ切れ」と言われながらも頑なに伸ばし続けている髪だが、後ろで短くくくれるくらいに伸びた。  校則は緩いので少々ロン毛でも茶髪でも特におとがめはないのだが、学校に来るときはいつもくくっている。  兄以外に見せたくないし、自分で今の髪型が似合ってるかどうかも分からない。自分の容姿など客観的には分からないものだ。だいいち典夫が今の髪型について何も言ってくれない。「似合ってる」の一言さえもないのだ。  そういえば、と知矢は不意に不安になった。  この頃お兄ちゃんは僕のことかわいいとか綺麗だとか言って褒めてくれなくなったな。例えお世辞でも大好きな人に褒められるのは嬉しいものなのに。  いや、恋は盲目と言う。だからお兄ちゃんは本気で僕のことかわいいとか思ってくれていたのだろう。  しかしここ最近はセックス時でもそういう言葉を言ってくれなくなった。  女の子じゃなんだからそういう言葉に必要以上にこだわることはないと表面上は思いつつも知矢は不安になる。  ……もしかしてお兄ちゃん、倦怠期に入っちゃった?  知矢は焦った。  そんなまさか。思いが通じ合ってからまだ一年目の記念日さえ迎えていないのに。  絶対にそんなことはないと、ぶんぶん頭を横に振る。  第一たった今、デートに誘われたばかりじゃないか。  それにことあるごとにキスを強請って来るし、毎夜のようにセ、セックスだって求められるし……。  と、今度は大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせるように頭を縦に振る。  兄のちょっとした言動にさえ過敏に反応してしまう。  きっと好きという思いのベクトルは僕の方が強いのだろう、と知矢はちょっぴり寂しくなった。  

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