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第12話 弟、ナンパされる

         *  待ち合わせ場所であるナナ公前に着いたとき、まだ典夫は来ていなかった。  ……ちょっと早く着いちゃったなー。  知矢はスマホに視線を落としラインを送る。 『お兄ちゃん、着いたよー』  するとピコンとすぐに返信が来た。 『あと十分ほどで着くから待ってて♡』  メッセージの最後につけられたハートマークが嬉しい。  両親の前でさえクールで通っている典夫がハートマーク付きのラインを送って来てくれる。時には知矢が好きなウサギや猫のスタンプを送って来てくれる時もある。 「知矢にだけだよ」……以前兄が照れくさそうに言った言葉が耳に蘇る。  改めて兄にとって『特別』な自分を感じて倦怠期かもしれないなんて思ったことを反省した。  そして、ふと気づき後ろで括っていた髪を解く。サラサラと耳を隠す髪。  何だかくすぐったい気持ちでゲームをしながら兄の到着を待っていると、ふっと目の前に影が差した。  てっきり典夫が来たものだと思った知矢は満面の笑みとともに顔を上げる。 「お兄ちゃ――」  言いかけた言葉が止まる。目の前に立っていたのは兄とは似ても似つかない男二人だったからだ。 「いやー君かわいいねー。一人?」 「俺たちと遊ばねー?」  着崩した服がだらしない。普通の格好をしたらそれなりの見た目なのだろうが何とも残念な二人組だった。  え? 何? もしかしてナンパ? 嘘。  信じられない出来事に知矢の顔が引きつる。 「…………お断りします。連れが来ますから」  次の瞬間、男たちの目が点になった。 「その声、何? おまえ、まさか男?」 「げっ!そう言われれば制服……学ラン」  二人は知矢を女の子だと思って声を掛けたみたいで今更ながらその声(流石に女の子の声ではない)と、制服姿(すぐに気づきそうなものだが顔ばかり見てたのだろう)に二の句が継げずにいる。  

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