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08 寂しいだけでもいい-2
頭から熱いシャワーを浴びると、やっぱり断ればよかったと後悔の念が胸の中に広がった。さっきまでなら、まだなにかと理由をつけて追い出すことができたはずだ。ここまできて、やっぱり帰ってくれと言ったら、さすがの小野塚も腹を立てるだろうし、素直に出て行かれたらそれはそれで水澤の罪悪感が増しそうである。
自分から呼びつけておいて勝手極まりない思考が脳内を飛び交う。
やっぱり自分がリビングで寝るのが現実的だろうと思い、水澤は浴室から出た。洗濯機はもう水抜きしてしまったので、汚れ物やタオルはビニール袋に入れて運ぶつもりだ。
服を着てから水澤はそっと寝室を覗いた。先にシャワーを浴びた小野塚は、水澤にインナーシャツだけ借り、薄い布団にくるまって寝息をたてている。無防備な背中が小さく見えて、思わず触れそうになったがすんでのところでこらえると、水澤は部屋を出ようとした。
「水澤さん」
振り返ると小野塚が起き上がってこちらに顔を向けている。
「様子を見に来ただけで……」
口のなかでもごもご言う水澤に、小野塚は手招きした。
「俺はリビングで寝るから」
「ソファじゃ熟睡できませんよ」
まだ迷いがありながらも、水澤は吸い寄せられるようにベッドに近づいた。夫婦のベッドではあったが、もう1年以上ひとり寝していたこともあり、小野塚がいてもそれ自体に違和感はない。しかし、小野塚が手を伸ばして抱き締めてくると、こんなことをして良いのかと妙な感じがする。
「……寝るんじゃなかったのか」
「まだ夜は長いです」
深い接吻のあいだに水澤は体をベッドに引き込まれてしまう。自分がこんなことになるとは想定していなかったが、困惑しながらも小野塚の愛撫の巧みさに、体は反応しはじめていた。
「まだ指輪してるんだ」
「だって……はずしたら会社で皆が気にするだろ」
「もう本社には行かないでしょ」
結婚当初に比べてすこし痩せたせいか指輪は緩くなっていて、小野塚が手を添えると簡単に抜けてしまった。
「これで水澤さんはフリーだから、俺と何しても倫理的な問題はないです」
「……そうだけどさ」
小野塚の手が脚のあいだに伸びる。
「あ」
拒否するつもりが、久しぶりのせいか快楽に抗えない。恥ずかしながら、もっとして欲しいと思ってしまった。
内心を見透かされたのか、下着をずらされ性器があらわになったのを感じた。水澤は恥ずかしさのあまりうつ伏せようとしたが、小野塚の腕でさらに体を開かれてしまう。
「……どうするんだ」
「痛いことはしません」
先端を撫でられると、蜜が滴るのがわかる。受身のせいか自分の体が柔らかくじっとりと変化していくのを実感する。
小野塚の手が雄蕊を包み、ゆっくり動かす。
「はッ……」
水澤は体をこわばらせ、小野塚に抱きついた。怖いくらいに気持ちが良い。これ以上触られたら、どうにかなってしまいそうだ。
「もう、もう……やめてくれ」
「ダメですよ。パンパンじゃないですか。どんだけ禁欲してたんです?」
禁欲していたつもりはない。自慰をする気にならなかっただけだ。強く扱かれると、水澤は簡単に達してしまった。自分でも恥ずかしくなるほどに、甘い声をあげていた。
「水澤さん……可愛い」
脳は酸素を求めているのに、小野塚に脣を奪われ、窒息しそうになった。
「そんな姿見ちゃったらもっと色々したくなっちゃいます」
小野塚の声が心なしか震えている。脚のあいだに硬いものが触れて、心臓が跳ね上がった。さっき精を放ったばかりのものが、また熱を帯びている。性欲が強い方ではないはずなのに、そんな短時間でと不思議な気分になったが、受動的に愛撫を受け入れるとこんな感じなのだろうか。初めてのことで、妙に興奮しているのも確かだった。
まだ弛緩しているものに、小野塚の雄が押しつけられる。
「硬くなってきましたよ」
ふたつの雄蕊が互いを愛撫して、先端から蜜が溢れるのがわかる。小野塚は水澤を抱き上げ、脚の上に座らせて深く口づけた。水澤は本能的に快楽を求めて腰を動かしてしまった。なぜこんなに求めてしまうのか。ただ寂しいだけのはずなのに、もっと小野塚の腕に抱かれて、熱を感じていたかった。
「……いいのか」
「え?」
息を弾ませながら水澤は訊ねた。
「俺は……君が好きとかそういうのじゃなくて……」
小野塚の手が腰から下へ伝っていく。後ろに異物感をおぼえ、水澤は思わず体をよじった。
「どこ触ってるんだ」
「ここだって、気持ち良くなる場所ですよ」
「……おかしなこと言うな」
その割に小野塚の声は妙にやさしく、熱を帯びた指先に拡げられると、水澤はこのまま陥落してしまいたい気分になった。
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