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10 溢れるもの-3

ベッドの上で下半身を露わにされると、自らの分身はすっかり反り返っていて涎を流している。男としては情けない限りであるが、早く小野塚の手で愛撫されたくて、水澤の心臓はばくばくと波打っていた。  促されてシャツを脱ぎ捨てると、肋の凹みがじっとりと汗ばんでいるのがわかる。 「すこし肉がつきました?」 「……太ったってことか」 「俺は今くらいの方が好みですけど」  調子のいいことを言っている小野塚の体は引き締まっていて筋肉の線が美しい。絶対にダイエットをしようと水澤は決意したが、はだかの胸を爪先で撫でられるとそれ以上はなにも考えられなくなった。思わず腰が動く。しかし小野塚は臍から下には触れてくれない。じんじんと痺れているような昂まりを早く解放してほしい。 「小野塚……触って……」 「どこをですか?」 「俺の……ん……」  子供みたいな表現をするわけにもいかず、水澤は言葉に詰まってしまった。 「可愛いなあ」  小野塚の手が脚の間に伸びたが、脚の付け根から奥に分け入っていく。 「そっち……?」 「この前だって満更でもなさそうでしたけど」  正直なところ、初めてのときのことは夢中になっていたせいか記憶がない。しかし拡げられ慣らされていくうちに、体は覚えているのかなとと思う。 「今日はちょっと俺のしたいようにさせてもらいますよ」 「え?」  水澤は腰を抱えられ四つん這いにさせられた。次に何が起きるか容易に想像できて、本能的に逃れようとした。 「駄目ですよ」  腰骨に小野塚の指が食い込む。大きなものが鈍い痛みとともに侵入してきた。 「あっ……」 「力抜いて」  深いところまで小野塚のものが入ってくるのがわかる。痛いかと訊かれ、水澤は首を振った。痛くないわけではない、でも、もっと満たしてほしい。 「動きますよ」  熱の塊がゆっくりと抜き差しされる。はじめは優しかったのに、次第に強く内壁を突かれて水澤は呻き声を漏らした。 「すみません、我慢できなくて」  詫びているくせに小野塚は動くのをやめない。水澤はマットレスに爪を立てて掻きむしりそうにながら、息が詰まりそうな感覚に耐えていた。 「水澤さん」 「え……?」 「こんなところにホクロがあります。知ってましたか?」  左側の臀を撫でられた。 「……知らない」 「じゃあ俺だけですかね、知ってるのは」  そんなことないだろうと言いたかったが、腰を打ちつけられて息ができなくなった。 「いったん抜きますね」  小野塚の体が離れ、水澤は布団の上にくずおれた。解放された安堵と物足りなさがないまぜになっていて、体の奥はまだ熱い。 「疲れましたか?」 「ん……」  訊ねた癖に返事は求めていないのか、小野塚は胡坐をかいて水澤を抱き上げた。 「まだ足りないです」 「お前なあ……」 「水澤さんだってイってないでしょ?」 「俺くらいの歳になると、別にいかなくていいんだよ」 「そんなの、許しません」  なに子供みたいなこと言ってるんだと呟いたものの、水澤は小野塚に促されるまま腰を浮かし彼を受け入れてしまった。 「ふ……うっ」  慣れてきたがさすがに痛い。こんな姿勢でどうするのだろうと身を硬くしていたら、いきなり背中に腕を回されきつく抱き締められた。 「水澤さん」  耳朶をくすぐる声は熱っぽく震えている。水澤は小野塚の首筋に頬を押しつけてじっとしていた。隙間無く抱き合っていると小野塚の体温が伝わってきて、満たされている気分になった。水澤は深く息を吐いた。 「気持ちいいですか?」 「うん……」 「もう少しこうしていましょうか」  水澤は小野塚の肩に腕を回した。  アパートの脇の道路を車が通過する音が何度も聞こえた。 「そろそろ、動きたくなってきました」 「え」 「駄目ですか?」 「……いいよ」  返事をした途端、腰を突き上げられた。 「は、あっ……」  小野塚は食いつくように脣を奪い、蹂躙するかのように舌を腔内に這わせた。水澤は突然の激しい動きについていけず、されるがままになっていた。 「水澤さん……ここ、いいでしょう?」 「……わからないっ……」 「だって水澤さんのもの、ビンビンですよ」 「やだっ……」  まだ羞恥の感情か残っていて水澤は小野塚の首にかじりついた。それでも敏感な部分を下から突かれ、もう限界に近づいていた。 「小野塚……もう、許して……」 「どうしました?」 「これ以上されたら……壊れそう」 「そんなこと言われたら壊したくなっちゃうけど、さすがにマズいですね」  言葉通りとは裏腹に小野塚はさらに激しく腰を上下させた。 「あ、もう……無理っ……!」  水澤はほとんど泣いているような声を上げて達していた。小野塚も達したのかくぐもった声を漏らし、肩で息をしながら名残惜しいように水澤の背中を撫でていた。  少しうとうとしてしまったようだ。まだ重い瞼を上げると天井の照明は消えていて、小さな球状のフロアスタンドだけがオレンジ色の光を放っている。  体が重くて動きたくない。しかし全身がじっとりと湿っているようで気持ち悪く、シャワーを浴びたかった。水澤はどうにか上体を起こした。かけられていた綿毛布をはねのけて辺りを見回すが服がない。下着すら見つからず途方に暮れてしまった。 「起きました?」  ドアが開いて、部屋着をきちんと身につけた小野塚が入ってきた。格好のあまりの違いに水澤は体中が熱を発するのを感じた。 「俺の服は?」 「洗濯してますよ。外回りしてたんでしょ?けっこう汗臭かったから」 「あのスーツ、ウォッシャブルじゃない」 「大丈夫です。それは洗ってません」 「……帰れないじゃないか」 「泊まればいいでしょう。パジャマ、貸しますよ」  水澤は惨めな気持ちになり、綿毛布を握り締めた。 「君はそれでいいかもしれないが……」  小野塚はベッドに腰を降ろした。水澤は身を引いて距離を取った。 「あんなことしておいて悪いけど、俺はまだわからないんだ……君の好意に応えられるのか」 「また、難しく考えてるんですか?」  小野塚はちょっと笑った。 「俺としては水澤さんとこんなことできるだけで十分幸せですけどね」  肩に腕を回される。これくらいなら嫌悪感はない。むしろ、寄りかかりたいくらいだが、汗臭い体をくっつけるのに躊躇した。もじもじしていると、小野塚の方から体を寄せてきた。 「キスしてもいいですか?」  イエスと答えるべきか水澤はだいぶ迷った。 「ごめん、今はそういう気分じゃ……」 「なら、仕方が無いですね」  小野塚は少ししょんぼりしていて水澤は申し訳ないと思ったが、しかし申し訳なさで応じるものではない気がする。 「今、何時?」 「9時回ってます」  寝てしまったせいで時間の感覚がよくわからないが、それなりに長いこと小野塚と肌を重ねていたのだろう。水澤は頬が熱くなるのを感じた。  小野塚があくびをした。 「腹減ったなあ。ずっと自炊してたから、宅配ピザでも取ろうと思ってるんですけど、どうですか?」 「……俺、そんなにたくさん食べられないよ」 「大丈夫です。Lサイズの3分の2、俺が食べますよ」  水澤はほっとしてすこし笑った。 「そういえば君、けっこう食べるよね」 「はは、見られてましたか」  注文しておきますからシャワー浴びてくださいと言って、小野塚は部屋を出て行った。水澤もゆるゆるとベッドから降りた。何を話せばいいのかなと考えていた。

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