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第5話
なぜそんなことをしたいのかは、兄にもわからないようだ。
ただ今の変化の激しい中国を見ておきたい。そう言って、時間と金の許す限りあちこちを旅行して回っていた。
そして兄は、留学先でもアルバイトを見つけて働いていた。
ちなみに時給を聞いたら15元から30元程度(200円~400円くらい)と言われて驚いた。それでもいいほうだと言う。
平均月収を考えたらそんなものか? 物価の安い中国で金に困っているわけでもないだろうにと思っていたが、主に人脈を作るためだったと後から知った。
そしてある日突然、一時帰国したかと思えば「中国雑貨の貿易会社を作る」と宣言した。
両親はもちろん、あっけに取られていた。
一緒にやるのは留学生仲間の上野孝弘と香港人のレオン・黄(ウォン)という二人だと言う。
なんて物好きなんだろう。最初に聞いたときに思ったのはそれだった。
次に絶対、半年持たずに潰れるだろうと思った。兄の性格の大雑把なことを思えば、起業するなんて現実とは思えなかったのだ。
あっけに取られた両親は、あまり反対しなかった。
言い出したら聞かない兄なので、半ば諦めていたようだ。開業資金もたかが知れていて、若いうちにそういうチャレンジをして挫折してもいい経験になると思ったらしい。
ところが、家族の予想に反して兄の会社は潰れなかった。
おそらく、共同経営者に恵まれたのだ。もちろんこれも兄の人徳というか、人を見る目が確かだったのかもしれないが、何度かの危ない時期はあったようだが、中国で培った人脈が物を言ったようで、何とか会社はつぶれずに軌道に乗った。
経理的なことはレオンが責任者となっていて、買付けや商談は孝弘さんが同行しているらしい。趣味に突っ走る兄を二人がなんとか軌道修正しているんだろう。
会社ができて3年近く経つが、いまだに俺は二人に会ったことはない。
香港人のレオンとは共通言語はないし、孝弘さんとは何度も電話でやりとりしているが、孝弘さんも滅多に帰国しないので会う機会はなかった。電話で話した感じだと、はっきり物を言ってくれるので、やりやすい人だ。
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