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第7話

「うん。ぞぞむ、ホータン川を見に行ったんだ。だから当分ホータンにいるんじゃないかな」 「ホータン川? 兄ちゃん、川を見に行ったの?」  民芸品を見に行ったのかと思っていたけど、川? あ、もしかして皮? ホータンって珍しい動物かなにか?  なんだそりゃと思ったのがわかったんだろう、孝弘さんが説明してくれた。 「夏のあいだだけ、砂漠の中に突然できる川があるんだ。それがホータン川」 「砂漠に突然、川ができるんですか?」  意味がわからない。  夏だけ干上がるってんならまだしも、夏だけできる川? おかしくね? 「うん。ホータンの南側に崑崙山脈ってあるだろ? そこが5千メートル超えの山脈なんだけど、夏の間の雪解け水が砂漠の地下をずーっと通って、ホータンあたりで地上にあふれて来るんだ。それが大きな川になって、だいたい3ヶ月くらいかな、夏の間だけできるホータン川って有名なんだよ」 「へえ、おもしろいな」  ちょっと興味がわいた。  砂漠に突然川ができる。すごく不思議だ。  川の始まりってどうやってできるんだろう? 「ぞぞむは川が最初にできるところが見たいって言って、ホータン入りしてる。川が出来はじめるのは毎年6月半ばくらいらしいけど、どうせあいつのことだからついでに玉(ぎょく)でも買いまくってるんじゃないかな」 「ぎょくって?」 「ホータンの名産品。つるつるのきれいな石だね。シルクロードの時代から有名な特産品だよ」 「へえ」  孝弘さんは民芸品や工芸品には興味がない人だ。  兄が買い付けるそれらの品を普通に商品として見ていて、その冷静な態度に俺は救われる。留学生もみんながみんな兄みたいにクレイジーじゃないのだ。 「じゃあそれも送ってくるのかな」 「かもな。たぶん、九月になったらウルムチに戻るか、カシュガル経由で北京に戻ってくると思うけど、連絡取りたい?」 「孝弘さんは取れるの?」 「たぶんね。ホテルだけは連絡してきたから、フロントに伝言頼めるよ。中国人用の宿かもしれないから国際電話は無理だと思う」

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