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第8話

 これも俺には理解しにくい事柄の一つだ。電話回線がまだそこまで普及していなくて、いつでも電話連絡が取れる状態にはないのだ。  各家庭に電話がないのが当たり前だと言う。  国内長距離電話はホテルや会社だと回線があるから取れるが、国際電話になると別回線なので通じない。  地方都市に行くと基本的に国際回線はないので、いわゆ電話局まで行って窓口で国際電話をかけたいと申し込んで、回線をつないでもらうらしい。  なので、兄からの国際電話は昼間家にいる俺がほとんど取っている。電話局が閉まる5時以降は電話がかけられないからだ。  不便じゃないのかと訊いたら、一般庶民は国内長距離も国際電話も掛ける必要がないから不便なんて感じてないぞという返事だった。一般庶民じゃなく、俺は兄ちゃんの不便を訊いたんだけど。  国内長距離も長距離回線がない場合は電話で申し込んで、オペレーターに頼んで繋いでもらうそうだ。  昔の日本みたいな感じか? そんな時代知らんけど。 兄は携帯電話を持っているはずなのにと思ったら、必ずしも電波がある訳じゃないと笑っていた。 そんな状況だから、兄が地方都市に行ってしまうと、連絡が取れない事も多いのだった。孝弘さんはそんな状況に慣れていてまるで気にしない。  中国に長く住んでいるとそうなるのか、元々こういう大雑把な人なのか。  でも仕事は兄よりかなりきちんとしている。書類も孝弘さんが書いたものは読みやすい。 「別に急がないからいいです。物が届いてからでもいいし、ウルムチやカシュガルに寄るならさらに荷物増えるんでしょ?」 「そう思うよ。どう? 注文入ってる?」 「意外とあります。あ、4月の売上表、あとで送りますね」 「うん、ありがとう。将太くんがしっかりしてるから、本当に助かるよ」  孝弘さんは年下の俺にも丁寧で、いつもお礼や励ましを言ってくれる。海外生活が長い人に特有のストレートな物言いは気持ちがいい。 「いえ。じゃあ切りますね」 「はい、お疲れさま。またね」  電話を切るとふうっとため息が出た。  引きこもりの俺が、国際電話をかけて仕事の話をしているなんて、一体どういうことだろう。

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