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第10話

 でも在宅でできるアルバイトにつられた俺は、兄の依頼で櫻花貿易公司のホームページを作り、試行錯誤でネットショップを立ち上げ、否応なく名刺を持つことになった。  兄が注文した名刺には「櫻花貿易公司東京本社 総経理 佐々木将太」と中国っぽいすこし平べったい字体で印字されていた。 「カッコいいだろ? 隷書風にしてみたぞ」  れいしょふう? なんだそりゃ。  生まれて初めての名刺に俺は首をかしげた。   経理っていうかただのアルバイトなんだけど。でも名刺にアルバイトって書くとまずいんだよな? 「兄ちゃん、経理担当でもいいけど、総経理っておかしくね? 俺一人しかいないのに」 「いいんだ、中国人相手だからはったりが必要なんだ。総経理って言うと響きがいいだろ?」  そうかあ? ていうか、ここは日本だっちゅーの。  でもそういうものかと思い、俺は机の引き出しに名刺を放り込んだ。どうせ誰かに渡す機会なんてほぼないはずだ。  しかし、バイト代やるから頼むよと言われて引き受けたが、商品管理はなかなか大変な作業だった。  何しろ、兄が送ってくる商品は脈絡がない。  チャイナドレスや両面刺繍や螺鈿細工といった商品がメインだが、聞いたこともない何とか民族の仮面とか謎のお札とか、壺とか銀の髪飾りとか牛骨のアクセサリーなんかも入っている。  中国に興味のない俺にはどこの何だか、さっぱりわからない。  兄の手書きの指示書や説明は大雑把にもほどがあり、仕方なく俺は図書館に行って少数民族関係の書籍を借りて調べる羽目になった。  司書には中国の少数民族マニアだと思われているようで、今では俺の顔を見るとこういう資料もありますよなんて親切に声を掛けてくれる。  ……すごく不本意だ。  その間にも兄は次々と商品を送ってきて、俺は黙々と商品ページを増やしていった。  こんなの欲しがる人いるのか?と思いつつ、写真を撮って説明文をつけてアップする。  最初の頃はまったく注文が入らなくて、そりゃそうだろと俺は兄の部屋を埋め尽くす在庫をどうしたもんかと眺めていた。  粗大ごみの日に出したら怒られるかな?

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