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第4話

ゆっくりと意識が浮上していく。 こんなに気分がスッキリするのは久しぶりだ。 そんなことを考えながらぼんやりと 目を開いた歩の前には、眉を顰めた辻堂(つじどう)の顔があった。 「ひぃっ。な、なに」 状況判断が出来ない。 脳が追いつかないとはこの事だろうか。 「おい。ジタバタするな」 辻堂は不機嫌に言い放った。 隣の部屋から、秘書の吉川が顔を出した。 「お目覚めですか。顔色も悪くないようですが、ご気分はいかがでしょうか。社長の膝枕だと寝心地は悪そうですけど。すぐ動くのはよろしくないようなので、もう少しそのままで結構ですよ」 意識を無くした歩を、フォルス本社の医者が駆けつけて、診察していたようだ。このまま目が覚めるまで動かさず、寝かせておけば問題ないと診断されたと吉川は言った。 仕事の依頼を受け、超一流と言われている会社に挨拶に来て、突然気を失い、そこの社長に膝枕をしてもらっている。 この状態を理解した歩は、また眩暈が起きそうになった。 「それとお前、そろそろ手を離せ」 呆れたようにまだ不機嫌な声がかかった。 「手を?」 自分の手元に視線を移した歩は飛び起きた。辻堂の手を握っていたのだった。 「た、大変申し訳ございませんでした」 腰を折り謝罪している歩を横目に、めんどくさそうに辻堂が続けた。 「突然気を失って倒れたから、お前を吉川と2人でソファまで引きずっていった。何でか俺の手を離さないから、ずっとそのままにしていたが、なんなんだ。まったく…」 「そうなんですよ。ずっと社長の手を離さなくて。ですが、不思議と社長が手を握っている時は、宮坂さんに触れることが出来たんです。その前は、なんかこう、バチっと電気が走るような痛みを感じたんですけどね」 と、続けて吉川が歩に伝える。 細身で理知的な印象の吉川だが、辻堂と同じく長身の男性である。歩より体格も良く頭ひとつ分大きい男性2人であるが、それでも気絶して、手を離さない男を運ぶのは大変だったかと思う。 「本当にご迷惑をおかけしました。吉川さん、痛い思いをさせてすいませんでした。もう大丈夫ですので、今からでもよろしければすぐに通訳をさせてください」 何のためにここに来たんだと、考える歩はまた気持ちに焦り混じり、熱が溜まりそうになってきたが、気持ちを抑え改めて謝罪をした。 「本日はもうお帰りになられて構いませんよ。体調もすぐれないようですし。前園さんには一足先にお帰りいただきましたから」 ひとまずこれでも飲んでと、吉川が暖かい飲み物を手渡してくれた。 「お前、この後ちゃんと通訳を続けていけるのか?途中でまた気絶されては困る」 少し長めの前髪をかきあげながら辻堂は歩を睨み言った。 フォルスの社長は、インテリジェンスな風貌や佇まいがあると、確か雑誌に書いてあった気がする。しかし、今の武骨な雰囲気の方が、素の辻堂なのだろう。 しっかり色気がある男性ってこういう人なんだろうなと、歩はぼんやり考えていた。 「おい。聞いてんのか」叱咤する辻堂に 「精一杯頑張ります」と慌てて歩は答えた。

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