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第5話

「…ということがありまして…」 うつむき加減でボソボソと後藤吾郎(ごとうごろう)に話をした。 吾郎は歩の主治医であり、ここ数年、身体の不調に寄り添ってくれる大切な存在だ。 改めて自分がやってしまった事が、大失態だったと歩は認識し、落ち込む。 「そうか…それは大変だったね。大きな事故にならなくてよかったよ。うーん、気になることは、手を繋いでいたらあの症状が治まったってことだけど、意識がなかったから覚えてないか」と、物言いたげな様子で吾郎が聞いてきた。 「覚えてないんですけど、意識をなくす間、なんとなく気持ちが落ち着く感覚があったような気がします。それでもはっきりは覚えていなくって、目が覚めたらしっかり手を握っていて。気絶したのも初めてですし、もう、何がなんだか…」歩は、辻堂の手を握っていたことと、眉間に皺を寄せた顔を思い出し、更に落ち込む。 「宮坂くん、実は過去にこんな例があったんだよ」と吾郎が続けた。 歩と同じように特殊なギフトの持ち主は、気持ちが昂ると、電気を放つ症状が出る人がいるようだ。定期的に行うギフトのメンテナンスで治る人もいるようだが、歩のようにメンテナンスだけでは症状は落ち着かず、薬に頼る人もいる。だが、そんな人はパートナーを持つと落ち着きだし、いずれは症状が出なくなり完治することがあったと言う。恋人を持ち、良好な関係を築くとギフトにも大きく影響し、心身共に安定するようである。 「具体的にはキスしたり、セックスしたりすること。身体が安心すると完治することがあるんだよ。その人…手を握っていた人は、宮坂くんにとって安心する人なんだと思うんだ」 「その人、男の人なんです。しかも今日初対面だったし、ちょっと怖かったから、安心するって感じじゃないと思う」 「そうか…でも、他の人にはあの感覚が伝わったのに、その人には伝わらず平気だったのは不思議だよね。しかも人の膝枕で寝れたなんて今までなかったことだし」 確かに。歩はずっとそのことを考えていた。過去にも何度か手を繋ぐ行為までは出来たことがあったが、あんなに長い時間は無理であったし、人の膝枕どころか、誰かと一緒に寝るなんてとてもじゃないけど考えられなかった。意識を無くしていく途中、確かに心地いい息吹がそばにあった。あの人は何か持っているのだろうか。もしかしたら、あの人のギフトに何か原因があるのかもしれないと、歩は考えていた。 「とりあえずまた薬出しておくけど、あんまり飲み過ぎは良くないな。注意しながら飲むんだよ。気絶した他には、夢精と電気を放って電化製品の故障させたか…恐らく症状が治れば、問題は全て無くなると思うけど、心と身体は一緒だからね。あせらないでね」 結局、今すぐ治る方法は見つからない。 心と身体がリラックスし、落ち着いた日々が続けば治るかもしれない。吾郎が言う、恋人というパートナーを見つければもしかしたら、症状は軽くなるかもしれないが、恋人になる前にみんな離れていってしまうのが現実だ。それは、歩の身体から発するあの症状がほぼ原因であることは間違いない。好きになる人に触れられないのは、相手も歩もとても辛いことだった。好きになったら、手を繋ぎたい、ハグしたいと思うのは自然のことであるが、その自然の行為自体が今は出来そうにない。 そのため、この生活の中で改善されるこ とはないだろう。急に身体が熱を集め、電気を放ってしまう症状は、処方される頓服薬を飲めば何とか治めることができる。ただ、長時間継続はしないので、その場しのぎとなってしまう。解決策がない今はその薬でなんとかするしかないのだろう。 吾郎に頓服薬を処方してもらい、家に帰っても歩の気持ちはすっきりしなかった。

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