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第7話
「社長、政府と国連の手配完了しました。これからすぐに官邸に来て欲しいと言われてます」吉川が慌ただしく戻ってきた。ブラン共和国とすぐに通話が出来る可能性があり、通訳のため歩も一緒に来て欲しいと言う。
「宮坂さん、体調がすぐれなければ社長がまた手を繋いでくれますので、心配ありませんよ」
「だ、大丈夫です、多分。今日は、薬も飲んできていますので」
怪訝な顔で辻堂に見られたが、気にせず吉川が運転する車に歩も乗り込んだ。
政府官邸では、既に会談の準備を始めており、到着した時にはブラン共和国の国王と直接オンラインで繋げる作業をしていた。先程国王へ送ったメッセージに、オンラインで繋がるパスコードも吉川から送ってあるという。このまま無事に繋がり会談を始められるだろう。
初めての会談は無事終了した。
「とりあえず、連絡が取れてよかった」
無事に国王とオンラインで繋がり、ここにいる全員に、安堵を与えた瞬間だった。緊急会談も無事終了し、ブラン共和国の抱えている問題が理解できた。歩の通訳が非常に役立ち、今後はブランに援助するフォルスのギフトメンテナンスも政府が全面協力することになった。
初めての通訳であり、また、かなり大掛かりな仕事だが、歩は緊張することはなく、スムーズに進める事が出来た。
それも、緊張しそうになると辻堂が手を握ってくれたので、パニックを回避出来たのだと思う。机の下でそっと手を握っていたのは、恐らく吉川以外の誰にも気が付かれなかったはずだ。
「宮坂さん。本日はお疲れ様でした。また明日も朝から忙しくなりそうなので、今日はこのまま車でご自宅までお送りいたします。ご住所教えてください」
ナビを設定している吉川に話しかけられた。
「あ、あの電気屋さんに寄るのでこのままここで失礼いたします」
車を降りようとする歩の肩を辻堂が掴み、軽々と後部座席のシートへ歩の身体を戻した。
「そんなに急いで買うものがあるのか?電気屋で」
「辻堂さん、乱暴にしない。宮坂くんがびっくりするじゃないですか」
吉川が砕けた話し方で辻堂に言う。
仕事を離れると社長呼びはせず、後輩に戻るようだ。吉川は辻堂の大学時代の後輩と言っていた。
「ドライヤーが今朝壊れちゃって。今からならまだ電気屋さん開いてるので」
「もしかして、宮坂くん。自分から電気を放ってしまうあれで、ドライヤー壊しちゃった?あの症状が出て電化製品を壊しちゃうことかなりあるの?」
聡い吉川にはわかってしまったようだ。
何と答えようか迷っていたら、今まで黙っていた男が口を開いて言った。
「吉川、こいつを俺のマンションの方に連れて行く。空いてる部屋に住まわせるから必要なものを揃えてくれ。今日は俺も終了でいいよな」
「そうですね。それがよろしいかと。承知しました」
二人だけで話を進めてしまう。何故そんな話になるのか、二人の頭の回転が速すぎて追いつかない。
「いえ、あの、家って…大丈夫です、ご、ご迷惑をおかけしますし…ここで失礼しますので…」
慌てる歩を無視し、辻堂のマンションに車は到着した。
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