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第11話

(やっちゃった…) 最近はずっと辻堂の家で生活しており、電気を放つ症状も少なくなってきていたので油断していたのかもしれない。 久々に夢精してしまった。 それに昨日の記憶がプツンと途中で途絶えていた。キスをしたのまでは覚えているが、ベッドに到着した記憶はない。辻堂が運んでくれたのだろう。 (伊織さん酔ってたのかな。かなり濃厚なキスだったよね、何度も。あれも僕の電気を抑えるためのボランティアみたいなもんかな) 昨日のキスを思い出すと顔が熱くなる。 夢精をしてしまったのも、溜まっていたものが溢れ出たのかもしれない。 酔っていたとはいえ、恥ずかしさで押し潰れそうになる。 今日は休みでよかったとはいえ、下着は辻堂にバレないうちに洗濯しなければならない。 (ああ…人様の家で大失態だよ。洗濯機、壊しそうだから手洗いしないと) 夢精もしているし、身体が興奮状態である。うっすら熱が出てきたのも感じる。電気を放ってしまうかもしれない。伊織はまだ寝ているだろうから、物音を立てないよう気をつけながら、歩はそっと洗面所まで辿り着いた。 「何してるんだ?」 後ろから声がかかった。 (ぎーーゃーーーー…)声にならない悲鳴を心であげて振り向いた。 辻堂が眠そうな顔で、壁にもたれかかって歩を見ている。 「なんかゴソゴソしてるなと思ってきてみたら、ん?洗濯か?こんな朝早くに」 「いえ、違います。何でもありません」 「何でもないって、下履いてないぞ」 上はティシャツ、下は下着姿だった。汚してしまった下着と寝巻きのスウェットは、後ろ手で隠していた。 「下履いてます。パンツ履いてます。昨日は酔ってこの格好で寝てました」 慌てて咄嗟に口から出まかせが出た。 「いや違う、スウェット履いていたな。昨日は、そのスウェットを俺が履かせたから間違いない」と、歩が後ろ手で隠しているスウェットを辻堂は指差して言った。 「恥ずかしくないから見せてみろ。ああ、なるほど。夢精したのか」 (なんでフォルスの人達はみんな聡いんでしょう、しかもハッキリと言うし) 恥ずかしくて俯いてしまう。それに、寝てる間に寝巻きのスウェットを履かせてもらってたという事実も知り、情けなさで歩は涙目になってしまう。 「そうか。ひとりで出すもんも出せなくて夢精してたのか」 こくこくと頷きながら、下着を手洗いする。 「洗濯機に入れろ」「結構です」の押し問答が続き、何とか自分で手洗いする権利をもぎ取ったが、洗ってる間も辻堂は歩から離れず質問をしてくる。 洗っている下着も見られているから、恥ずかしさで顔が赤くなるのがわかった。 「本当にすいません。最近、ずっと調子良かったので大丈夫かと思ってたんですが」 「別に歩のせいとか、病気とかじゃないから、気にするな。溜まってるもん出せないのはつらいよな」 男前な発言にドキッとしたが、顔は上げられずに「ありがとうございます」と小さく答える。 「ほら、洗ったら洗濯機入れてくれ。乾燥まで、まわしておいてやるから」 まだ朝早いからもう一度寝るぞと、 辻堂が歩の手を引き、歩の部屋とは反対の方へ歩き出した。 「部屋、あっちです」 「起きたらシーツも洗ってやるから、こっちで寝ろ。熱も溜まり出してるだろ」 辻堂の寝室に初めて入った。 キングサイズのベッドと、ナイトテーブル、フロアスタンドと至ってシンプルだが、辻堂らしい部屋だと思った。 「ここで寝るんですか?一緒?」 「まだ眠い。もう少し寝るぞ」 歩は、ころんとベッドに倒され、上からふんわり羽毛布団を掛けられる。 ドキドキして寝られないと思っていたが、ベッドに入ったら身体に溜まってきた熱が落ち着きだす。身体が疲れていたのだろう、ハァっと息を吐き出した途端、すっと眠りに入った。 目覚ましをかけずに自然に起きれるのは、休日の嬉しい喜びだ。眠りからさめた歩は伸びをしようとしたが、身体に重さがのしかかっているのに気がつく。 後ろから辻堂が抱きつかれていた。何度目かの悲鳴を上げそうになり、ぐっと堪え寝ている辻堂を盗み見した。 (そうだった…下着を洗った後、こっちの部屋に入って寝てたんだ) 連日忙しくしている姿を見ている、社長としての責務を果たす責任も大きいと感じる。今日、明日は休みなため少しでも休んで欲しいと思い、そーっと辻堂の腕をどかして、ベッドから滑り出る。 窓から外を見ると、いい天気だった。

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