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第12話
土鍋でご飯を炊く、お味噌汁、漬けておいた鰆の西京漬。
二度寝をしたので遅い朝食となるが、
疲れているだろう辻堂に、しっかり食べて欲しいと思い準備をしていた。
それと、何かしていないと考えがくるくる回り始めるから、歩は忙しなく動く。
辻堂が起きてきて、冷蔵庫からペリエを掴み飲んでいる。寝起きの辻堂は、仕事では見られない隙がある。まだ眠そうにしている姿を見ることができるのは、同居している特権だなと、嬉しさからクスッと歩は小さく笑った。
「ん?」
飲みながら辻堂が歩を見て言う。
「いえ。おはようございます」
「おはよう。調子はどうだ?」
辻堂が距離を詰めてきた。
チュッ…
そして、ナチュラルにキスをしてきた。
「へ?」
「ん?体調は問題ないか?」
「問題はないです。調子はいいです…」
まだ眠そうにしていると思ったのに、急に距離を詰めてきて、キスをするから瞬間息を止めてしまった。とっさに質問にだけ答えてしまった。
「そうか。やっぱりいい方に影響あるんだな。キスは」
「え、は、えーっと、そうですね。大丈夫です。熱も溜まりません。電気も放ってませんので、何も壊してません。ありがとうございます?」
最後は疑問形になり、首を傾げてしまった。そんな歩を辻堂は、ペリエを飲みながら見て笑っていた。機嫌がいいのがわかる。
朝食が終わり、洗濯も終わり、掃除も終わるとやることがなくなる。
洗濯に関しては辻堂が「俺がやる。手出しはするな」と言って譲らず、歩のベッドシーツなどもやってくれた。歩はキッチン周りの掃除をしただけなので、他には何もやることがない。
辻堂は、ジムに行くといい出て行った。
時間が出来るとわりとすぐにジム通いしているらしい。身体を動かしたくてウズウズすると辻堂は言っていた。
辻堂もいなく、やることがなくなり、ひとりになった歩は、これまでの日々をずっと遡り考え始めた。
緊張すると身体に熱を集め、電気を放ってしまう厄介な体質が、今はほとんど出なくなっていた。それは、辻堂と生活しているからだと感じる。薬を飲む回数も少なくなってきていた。
ただ、夢精はしてしまった。
体調は悪くないが、夢精だけはコントロールが出来ない。
辻堂と過ごすプライベートな毎日は快適過ぎる程だと思う。初対面の時の印象とは、今はかなり違う。一見冷ややかで怖い印象である辻堂が、実は面倒見が良く、心配性だとわかったからだ。
しかも甘い。
辻堂は歩に対してとても甘いのだ。
歩の厄介な体質のせいだと思う。
思うが、キスまでするだろうか。
昨日は酔っていたからしたのだろう。それなら今朝の、さっきのキスは何故だろう。いや、それよりあんなに手を繋ぐことも頻繁にするだろうか。ドライヤーや、身の回りのこともそう。あの人はあれが通常なのだろうか。
ベタベタに甘いのは、誰にでもなのだろうか。
(昨日はキスもしたし、夢精も知られてしまったし…)
考えれば、考えるほど、恥ずかしくてジタバタしてしまう。考えはぐるぐると回る。だけど何故、辻堂が歩にこんなにも甘く、世話を焼くのかがわからなかった。
(伊織さん何も言わないし。僕のこと犬とかペットの代わりだと思ってるのかな。なんかそれしっくりくるかも…)
自分で考え、答えを出して落ち込む。
何を期待しているかはわからない。
だけど、この胸がモヤモヤする気持ちはなんだろうと歩は考えていた。
「もう、考えてもわかんないや。何か甘いものでも作ろうかな」
独り言を言って、立ち上がりキッチンに向かおうとした時、辻堂のマンションに来客の知らせがあった。
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