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第16話

ブラン共和国プロジェクトは、スケジュールを引き、計画通りに進めることが出来ていた。 それぞれがやるべき作業を微調整しながら行っているため、予定より早く達成できるだろうと言われている。 今回のプロジェクトで辻堂伊織の会社、フォルスはギフトの点検、診断、修繕などのメンテナンス作業の構築を行う。 体内にギフトを持つが、一度もメンテナンスを行なっていないという人達のために、フォルスが持っている知識、技術をフルに使い、ブラン共和国にメンテナンスが出来る場所を作ることを計画している。 ただ、伊織はその後、最終的にブラン共和国が国として、ギフトメンテナンスを運営できるまで手助けし指導すると、考えていた。国を相手とするため、相当大掛かりなものになるので、政府や国連がバックアップし、全面協力してくれるというところだ。 宮坂歩(みやさかあゆむ)は、ブラン共和国の通訳を担当しているが、文書化するものを訳したりもしていた。現時点で、ブランの言葉を理解し、使えるのは歩だけなので、負担も大きい。そのため、歩を理解してくれる人達と、プロジェクトを通して必然的に仲良くなっていく。 「宮坂くん、お昼行こう」と声がかかった。 「大変だよね。あっちこっち引っ張りだこだし」 「社長に連れられて政府官邸まで行ってるんでしょ」 「社長と吉川さんに連れられてさ、プレッシャー半端ないって。俺だったらビビって泣いちゃうかも」 ランチの時間にあれこれと、矢継ぎ早に質問が飛び交う。その質問のほとんどが、歩を気遣うものだった。 歩は、こんなに楽しく人と会話しながら仕事が出来るのが初めてであり、何に対しても今は全く苦には感じない。 「みなさんの方が大変じゃないですか。専門的なことをやってるのを見て、本当に尊敬します。僕は今すごく楽しく仕事が出来てますし、それに社長も吉川さんも優しいですし…」 「えーーー」 歩の最後の言葉に、全員から驚きの声が飛び出た。 「優しい?うそ、怖いじゃなくて?」 「厳しいし、容赦ないじゃん」 きょとんとする歩に、みんなは何故か同情したような顔で「今度、飲みに行こうね」と約束を交わし、仕事に戻っていった。 午後からは政府との打ち合わせのため、 最上階の社長室まで来るようにと、 吉川に言われていた。 社長室に入る前で辻堂と吉川の声が聞こえてきた。 「そういえば、莉緒(りお)さんのメンテナンスって、決まりましたか?」 「いや、まだ日にちは決定していない。だが、今回は俺が一緒に入る」 「そうですか。日程は早めに決定して下さい。それと、宮坂くんはその間どうされますか?」 「莉緒とのメンテナンスは一泊だ。その間、あいつのフォローを頼む」 「承知いたしました。フォローしておきます」 歩は思わず立ち聞きする形となってしまった。 ギフトメンテナンスは、ベッドに数時間寝ている間に完了するものもあれば、メンテナンス部屋に入り数秒で完了するものもある。いずれの場合も、メンテナンス中はギフトを使用する事は出来ない。 そのため多くの人は休みの日に、一人で行うことを一般的としていた。 だが、ここフォルスは、恋人やパートナー、夫婦、ファミリーでメンテナンスに入ることが主流だった。 フォルスが指定するメンテナンス施設に入り宿泊をする。その間、ギフトは使用停止となるが、滞在中は何不自由なく過ごせる。24時間食事が出来、アクティビティ施設も充実しているため、リゾートホテルのように快適であり、旅行感覚で利用する人も増えている。 特に恋人やパートナーは、メンテナンスで愛を深め結婚したり、子供を授かったという人も多く、それだけ、身も心も充実するメンテナンス会社として国内外から注目されていた。 (伊織さん…莉緒さんって人と一緒にメンテナンスに入るんだ…) 目の前が暗く感じる。歩の知らない辻堂の生活があるとは、考えた事はなかった。

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