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第22話
プライベートジェットより降り立ったブラン共和国は、近代化が進む景観だった。
「思っていたより近代的ですね」
「そうだな。現国王が開国してから、随分力を入れて進めているんだろう」
吉川と辻堂の会話を、聞きながら歩は、後ろからトボトボとついていく。
「おい、大丈夫か?」
「宮坂さん、無事着陸出来てよかったですね」
「…はい」
ブラン共和国に着陸する時、辻堂に歩は抱きかかえられた。
これから20分後に着陸すると言われ、
緊張しシートベルトにしがみついていた歩を辻堂は、ひょいっと抱き上げ、辻堂の上に抱え、歩ごとシートベルトをし直した。
「大丈夫です、降ろしてください」
「このままで構わない。すぐに着陸する」の押し問答は、いつも家で繰り広げている会話と同レベルだが、ここにはその他フォルスの社員の方もいる。
着陸目前なので、みなが着席し動けない状態だ。その前で無自覚にも家と同じように構うのは、恥ずかしいのでやめてもらいたい。
「ジタバタするなって」「だから、大丈夫なんです」と、辻堂と言い合うほど、みなが顔を背けているのがわかる。見て見ぬふりしてくれているのだ。
しかも、そのままの状態で辻堂は吉川に話しかけた。
「空港には側近の誰かが来るのか?」
「そのように聞いております」
吉川が笑いを噛み殺し、声を震わせて答えた。涼しい顔をしているのは辻堂だけで、歩は恥ずかしさから顔が真っ赤になってしまった。
タラップを降り、専用レーンを抜ると、王室の車がズラリと並んでいた。
伝統的な民族衣装だろうか、ゆったりと体を包み込むような服を着た男たちが、辻堂を待っている。
その中で、一目で身分の違いが明らかな大柄な男性がいた。
(国王だ…)
ブラン共和国の現国王が辻堂を迎えに来ていた。
「まさか国王自ら来てくださるとは…大変感謝いたします」
辻堂の言葉を歩が訳した。
「友人を迎えにいくのは当然だろ」
国王の言葉を聞き、辻堂も吉川もあっけに取られた顔をした次の瞬間、笑顔になった。
通訳は必要だ。
正しく伝えないと、解釈の違いが発生してしまう。でも今、目の前の状況を見ると、言葉は必要ない時もあると感じる。不思議だ。顔を向き合い直接会うことで、距離が縮まっている。
王室の車に乗り、到着したのは王宮だった。王宮は緑の屋根が美しく、この国の気候風土に合った構造になっている。
気温の日較差はとても大きく、日中は灼熱、夜は冷え込みが強くと聞く。
そのため、建物全体は風通しが良く天井も高くなっている。
所々にステンドグラスがはめられており、カラフルで鮮やかな光が差し込んでいた。繊細な幾何学模様の装飾がされている壁も実に鮮やかだ。
辻堂をはじめとする全員は、王宮内の談話室に通された。
「ブラン共和国、現国王のムエック・ルカ・カルパだ。お越しいただき感謝する。着いて早々ではあるが、少数民族を救うための手助けをお願いしたい」
国王の様子から、切羽詰まっているように感じる。
以前、政府官邸での会談の際に、少数民族を救いたいという国王からのメッセージは受け取っていた。
ブラン共和国の山間に住んでいる『プカ』という少数民族と意思疎通ができるようになるには、ギフトメンテナンスが必要だ。メンテナンスを行えば、元に戻り状況は改善すると思う。ただ、プカの人達は現在心を閉ざしてしまい、会うことさえも拒否しているという。
「彼らもギフトをもっているが、今は使えなくなっている。そのギフトが急に使えなくなったのは、王室の陰謀でないかと思っているようだ。
違うと言いたいが、伝わらない。それに、支援物資を持って行っても断られている」
一刻も早く助けたいのが国王の心情だろう。
「国王、2つ計画があります。1つ目は、今回、弊社のギフトメンテナンス部隊を連れてきています。王宮のどこかにベース基地を作り、メンテナンスシステムの構築作業をしてもいいでしょうか。その後、こちらで障害が出ている言語ギフト者にメンテナンスを受けてもらいたいと思ってます。うまく行けばすぐに障害は解消するでしょう。
2つ目は、明日にでもプカのところまで連れて行っていただきたい。
国王の言葉で、現在の状況を伝えたい」
うちの言語保持者にプカの通訳をしてもらうと、辻堂は言い歩を見た。
歩もそれに応え、力強く頷く。
「わかった。こちらもそれはお願いしたい。必要なものは揃える、言う通りにやってくれて問題ない。夜明け早々にここを出発し、プカのところまで行く」
国王の顔に笑顔が浮かんだ。
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