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第23話

宿泊先は離宮だった。部屋は沢山あるから好きに使ってくれと、国王から伝えられ歩は恐縮するも、吉川がテキパキと部屋割りを指示している。 「一人一部屋使ってください。本日は各部屋に食事が運ばれてきますので、それぞれお取りください。メンテナンスの方々は、準備もあるでしょうから、個別に打合せをお願いします。 あ、社長はそっちの部屋を使ってください。宮坂さんはその隣の部屋でお願いします」 (さすが…吉川さん、生き生きしてる。自分のギフト使いこなしてる…) 隣の部屋といっても、ドアのひとつひとつが遠い。それだけ広いということだろうか。 ドアを開けると、風が流れて気持ちがよかった。部屋の中は途轍もなく豪華であり、極上の非日常的な空間だ。歩は、初めて見る煌びやかな空間にきょろきょろとし、好奇心で探索し始める。 部屋の中にもうひとつドアがあった。 開けてみると隣の辻堂の部屋と繋がっている。 「伊織さんっ。部屋が繋がってました」 「ああ。俺の部屋とこの部屋は、中で行き来できるようになっているな」 辻堂を見つけた嬉しさから、歩は思わず小走りしてしまった。 しかし、吉川が故意的に二人をここに配置したことを、歩はわかっていない。 夕食と共に、国王と吉川が連れだって一緒に部屋に入ってきた。 「この国の日中は灼熱ですからね、行動するのは夜明け早々か、夕方以降になるようです。明日のスケジュールですが、夜明け早々に、ここから車で山間近くまで行きます。その後、歩いてプカ民族のいる所まで行くようです。恐らく一泊することになるでしょう」 所々確認の上で歩が通訳をしているが、ほぼジェスチャーで吉川は国王とコミュニケーションを取り、真意を読み取っている。 さすがは社長秘書、マネジメントギフトの持ち主と眺めていたところに、国王が口を開いた。 「到着して早々に、メンテナンスの方達はもう既に作業進めてくれている。本当に感謝する。明日はプカに会いに行くから長い一日になるだろう。今日はゆっくり休んで欲しい」 「そうです。明日のために今日はゆっくり休んでください。いいですか、ゆっくり休むんですよ。疲れさせないように」 最後に吉川が念を押して言う。 (伊織さんを疲れさせないように、僕が大人しくしていないと) 初めての王室は物珍しさがあり、広い部屋をうろちょろしてしまったと、歩に自覚は大いにある。目障りにならないように注意しよう、辻堂を疲れさせないようにと、歩は心に誓った。 この国の夜明けは早い。 夜明けと共に支度をして、山間まで運んでくれる車に乗り込んだ。 吉川は既に搭乗しており、地図を広げて何やら国王の側近に交渉している。 言葉が通じていないとは思えない。吉川と側近は、お互いに自国の言葉で話をしているが、何となく通じているのだ。 「おはようございます。途中に市場があるので食料調達するそうです。甘いものがあるといいですね。それにしても…疲れさせないようにと、昨日あれだけ念を押して伝えましたよね」 吉川はチラッとこちらを見て言った。 「辻堂社長、疲れてますか?」 疲れさせてしまったかと思い、歩は焦って隣にいる辻堂に聞くが、「いや、全く疲れていない」という答えが返ってきた。 「社長じゃありません。宮坂さんですよ。疲れてるでしょう。だからスイーツ、ね、あったら食べてください。あればいいですね。好きですよねスイーツ」 歩の顔がカァッと赤くなった。 (疲れてる…といえば疲れてる…でも、でも、吉川さんには知られていないはずなのに…) 昨日はあれから、「この国の水は貴重だから、風呂は一緒に入るぞ」と辻堂が言い出した。 シャワーのように水を流しっぱなしにするのではなく、広いプールのような浴室に水が張ってあり、使う分だけ水を掬い使用するようになっていた。 浴室の側にはガーデンベッドのようなものがある。王室の方達は体を洗ってくれるお手伝いの人がいると聞く。このベッドに横になっていれば、体を洗ってくれるのだろう、そのためのベッドだ。 辻堂達は異国の客人のため、そのようなお手伝いの人はもちろんいない。 そのベッドに横にされ、歩は辻堂に体を洗われた。 「何もしない。ただ洗うだけだ」 「自分で出来ますって…」 そう言っても、辻堂が聞くわけがないのはわかっている。 体を洗われている時に、ビクッビクッと快感が走るが、歩は声を上げないように気をつけていた。 (昨日はキスだけで、本当に何もなかったんだけど…グッタリしちゃったんだよ…) ただ、そのキスがいつもより濃厚だった。ベッドの中で首筋から下、鎖骨まで何度も何度も吸い付くようなキスをされる。感触を確かめているように、指で唇をなぞられもした。口内も弄るように撫でられ、歩の舌を吸い込んで包むような愛撫であった。 「はぁ…」っと吐息が口を摘む。声を上げるのを抑えているから、息が止まるような感覚に陥る。部屋の中は既に濃厚な霧が立ち込めるくらい熱い空気が流れていた。それでも、辻堂は壊れ物を扱うように、歩の唇を撫で下唇だけを吸い上げる。それはくすぐったく、嬉しく、それでいてなんだか切ない。つい辻堂の頭に手を伸ばして抱きしめてしまいたい、そんな衝動が歩の中に起きていた。

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