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第24話

車の中から大きな山脈を見上げる。 王宮を出発してからかなりの時間が経つ。標高も高くなってきたのだろう、日射や紫外線が強くなり、空に浮かんでいる雲は掴めそうなくらい近くに感じる。 気温はそれほど高くなく、快適だった。 車は山腹に到着した。ここはブラン共和国が使用するベースキャンプになっている。小さなドームテントのような家が点々と造られていた。 車はここに置き、この後は歩きでプカ民族の所まで行く。ここからはそんなに遠くないようだ。国王と側近、そしてお付きの人と、かなりの人数でここまで来たが、この後プカの所までは、国王と側近の一人、辻堂と歩の四人で行くと、国王が言った。 「私達は誤解されている。今は歓迎もされていない。大人数で行くと警戒され会うことも出来ないだろう」 「問題ない、四人で行こう。吉川はここに残って待っていてくれ」 国王と辻堂の言葉に吉川は頷き、 「宿泊の準備をしてお待ちしております」 と頼もしく言い放った。 険しい山道を歩いた先に、急に開けた場所が出てきた。どうやらここが、プカ民族が暮らしてる集落のようだ。 明るい日差しが注ぐこの集落も、先程のベースキャンプと同じようなドームテントの家が点々としていた。 色鮮やかな外観でとてもかわいらしい印象だ。子供もいるのだろう、遊び道具が散らばっており、家族で楽しそうに過ごしている光景が想像できる。 『こんにちは』 歩はプカ民族の言語で話しかける。 人の気配は感じるが姿は見えない。恐らく、この先の茂みからこちらをうかがっているのだろう。家の中からも気配を感じる。 事前に国王に言われていた通り、歩は話を続けた。 『突然来てごめんなさい。でも今日は、ブラン共和国の国王の話を聞いてもらいたくて来ています。国王も一緒に来ています』 「反応ありません」 と歩が言うも、国王はこのまま話を続けて欲しいと言う。 すぅっと息を吸い、話を続けた。 今、ブラン共和国ではギフトに障害がでており、改善しないと会話が成り立たず、意思の疎通ができない。これからの話をするために、国王に呼ばれてここに来たことを伝えた。 (僕の言葉伝わらないのかな) 歩が不安を覚えていると、くすくすと笑う子供の声が聞こえてきた。 少しづつ、人影が見えてくる。 プカの人達が姿を見せて来てくれている。 『僕の言葉通じてますか?』 わぁっと子供達の声が沸いた。 その時、民族の(おさ)と思われる男が姿を現した。 『言葉は通じています。話を聞きましょう』 ギフトが動かなくなったのは、王室の陰謀ではなく、メンテナンスというものをしないと、動かなくなってしまうこと。 国王はそれを伝えたく、ここに来たということを歩は必死に伝える。 『それと、この人はそのメンテナンスができるものを作ってる人です。皆さんのギフトもメンテナンスが必要です。是非、受けて欲しいと言ってます』 隣にいる辻堂の言葉も続けて伝えた。 黙って聞いていた男が口を開いた。 『なるほど…突然、ブランから手織りの依頼が来なくなったのはそういうことだったか。それと、ギフトにはメンテナンスが必要と…見放されたと思っていた。こちらがだいぶ誤解をしていたようだな』 国王が跪いて伝える。 「私は、あなた達と共に生きていきたい。必要な限り手助けしたいとも思っている。お願いだ、これからのことを一緒に考えていってくれないか」 国王の言葉を歩が伝えると、 『…わかりました。一方的に拒絶した態度をとってしまい、すまなかった。私たちの生活も、ギリギリのところまで来ているのは確かだ。支援をいただけるのであれば是非お願いしたい』 (おさ)の心が解けていくのを感じた。 明日早々に、支援物資の手配を行うこと、メンテナンスの準備が整ったらすぐに受けて欲しいということ、それから、プカ民族の手織り布や民族衣装は素晴らしく以前と同じように国内外から依頼をもらっている、それを受けて欲しいことを伝え、約束をすることが出来た。 気がつくと周りにはたくさんの人に囲まれている。みんなニコニコと笑顔でこちらを見ていた。純粋で心優しい民族のようだ。 歩は皆に話しかけ、必要なものなどを聞いていく。 『国王が、すぐに必要な物を持って来てくれます。何が必要か教えてください』 すると、クスクスという笑い声や、声を上げて笑う女性が多くいることに気がつく。 「なんだか、笑われてます?僕」 「なんだろうな。お前が話出すと、おもしろいんじゃないのか?」 辻堂に言われ、疑問に思いながらプカの人達に尋ねる。 『あの…なんか面白いでしょうか。僕』 言いにくそうに、(おさ)が答える。 『そう…ですな。言葉が幼児語なので、皆それがおもしろいと思っているようだ』 「えーーー、伊織さん、僕の言葉赤ちゃん語らしいです。だから皆さんこんなに笑ってるんでしょうか」 「プカ民族とは交流が少ないため、言語も昔のままで止まっているのかもな。うちのメンテナンスをしっかり受ければ改善するぞ」 歩の多言語ギフトは、メンテナンス不足のために、アップデート出来ていない言語もあるようだった。 プカ民族の女性が歩の手を引き、女性達の輪の中に入れられると、一斉に彼女達が歩に向かって話し出す。 『こんなにかわいらしい赤ちゃん初めて見たわ』 『見た目はすっかり青年なのに赤ちゃん語を喋ってるから、もう、かわいくて』 『赤ちゃん語で必死に喋ってて悶絶したわ』 頭や頬を撫でられ、揉みくちゃにされる。そこに子供達も加わった。 『僕の弟と同じくらいの言葉だよ』 『お兄ちゃんなの?それとも赤ちゃんなの?』 『お歌も歌える?』 その光景を見て、国王も辻堂も笑っている。 歩は『違います。僕は大人です』と必死に伝えたが、彼らには 『ちがいましゅ。ぼくはおとなでちゅ』 と、聞こえるようだ。歩が喋れば喋るほど笑い声が大きくなり、女性達からは揉みくちゃにされる。 元々気さくでフレンドリーな民族なんだろう。誤解が解け、打ち解けてよかったと思う。国王は、明日からの支援と今後のことを強く約束をしていた。 プカ民族の集落を後にする頃には、歩はすっかり彼女たちのアイドルになっていた。 『また来てね。夜は寒くなるから気をつけて』 『お腹出さないで寝るのよ』 『…わかりました。ありがとうございました』と言う歩の言葉も、もちろん、 『わかりまちた。ありがとござまちた』と彼女達には聞こえ、プカ民族の間で萌えが広がりはじめたのだった。

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