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第25話
プカ民族の集落を離れ、吉川のいるベースキャンプまで到着する。
「おかえりなさい、お疲れでしょう。食事も出来ていますよ。それと、社長。メンテナンス部隊から連絡が入りました。システム設定が終わり、語学ギフトの持ち主の方にギフトメンテナンスに入っていただいております。予定通りです」
「わかった。すぐに連絡する」
吉川に言われ、辻堂は衛生電話を片手に離れて行く。
「今日はここに一泊します。スイーツも出来ましたよ。宮坂さん喜んでくれるかな」
吉川はそう言いながら歩を、テーブルまで連れて行く。
「あの、吉川さん。プカ民族との話ですが、上手くいきました」
「そのようですね。帰ってきた時の社長の様子を見てわかりました。さあ、どうぞお腹すいたでしょう。食べてください」
吉川は長年、辻堂の秘書だ。
言葉を交わさなくても、辻堂の表情でほぼ何があったのかわかるのだろう。流石だと思う。
テーブルには色々な食べ物が並んでいた。吉川が、はいどうぞと持ってきてくれたものは歩も見たことがあるものだった。
「これ、クレープですか?」
「この国のクレープといったところでしょうか。途中の市場でフルーツも買ってきたので入ってますよ」
濃厚なバターと蜂蜜を生地に塗り、フルーツやナッツを砂糖にまぶしたのもを詰め込み丸めている。シンプルなものであるが、新鮮なフルーツがものすごく美味しい。
「ふぁ…美味しい。はぁ…おいしいです」
「宮坂さん、大活躍ですからね。沢山食べてください」
国王が来て同じテーブルに座る。
「明日の朝には物資がここまで届くように手配した。これでプカ民族も救うことができ、以前のような友好的な関係に戻るだろう。何もかも君たちが私の話に耳を傾けてくれたおかげだ。感謝している」
力強い王の目には未来が見えている。
この国の未来は明るい。
明日の夜明け早々に、ここを出発し王宮に戻る予定だ。王宮に戻り、ギフトメンテナンスの方を早急に確認したいと、辻堂は言っていた。
辻堂も交えて夕食となったが、手早く済ます。早朝の撤退を考え、皆がテキパキと後片付けを行なっている中、キャンプのように火を灯し、国王を中心に辻堂達は会話が始まる。
やはり話はこの話題となる。
「そうですか。宮坂さんのプカ語は赤ちゃん語だったのですね。見たかったな。あ、宮坂さんの言語ギフトもメンテナンスをきっちりすれば、現在使っているプカ語にアップデートされるはずです。方法はいくらでもありますから」
吉川に改めて言われると、メンテナンスの大切さをしみじみ痛感している歩は落ち込んでいく。
「国王のお言葉も、赤ちゃん語で通訳しちゃったんです」思い出し、歩は更に泣きそうになった。
「いや、私は気にしていない。それにこのままでいいんじゃないか。プカの人達、主に女性の方達は、歩の幼児語を凄く喜んでいただろ。メンテナンスしてもこの言語だけアップデートしないようにできるのか?」
国王が間に入り、辻堂に尋ねた。
「ああ、できる。その辺は本人の希望でいくらでも調整はできる」
と、辻堂が答える。
「ちょっ、ちょっと待ってください。
伊織さん、いつの間に国王と会話できるようになったんですか?僕が通訳しなくても、今の言葉全部わかってますよね?」焦って辻堂を名前で呼んでしまった。吉川の目を気にするどころではない。
そうなのだ。歩は少し前から感じていた。プカ民族の集落で、歩が揉みくちゃにされている時も、こちらに戻ってきた時も二人が会話をしている姿を多く見ていた。
「いや、なんとなくだが」
辻堂はそういうが、歩が聞くところ問題なく会話はスムーズに成り立っている。
「伊織は私の言葉を理解している。私も伊織の話すブラン語は理解できる」
国王が辻堂を見て力強く伝える。
国王の言葉を理解し、会話ができるようになっている辻堂には驚きだ。語学をいち早く習得する方法を知っているということだ。
「歩のギフトは言語だろ。吉川はマネジメントか…伊織のギフトは何だ?」
国王が砕けたような口調で聞く。
気心を許しているのがわかる。
ただ、歩はその質問を聞き緊張が走る。辻堂がギフト無しと知ったら、国王はどう思うのだろうか。世間的には、ギフト無しをよく思わない人もいるからだ。
「俺はギフトを持っていない。ギフト無しだ」と辻堂は答えた。
「奇遇だな。私もギフトは持っていない。ギフト無しだ」ニヤッと笑い国王が答え、続けて話をしだす。
「我が国の王族はギフトを持たない、いわゆるギフト無しだ。側近達やその他の周りにいる人々は色んなギフトを持っているから、王族が無くても不自由や問題はない。それよりも、王族がギフトを持つと権力争いや、傲慢な人がどうしても出てきてしまい、公平に判断ができなくなる。そういった理由から我が国では、王族にギフトを持たせないようにしている」
世界は広い。
そして、人々の上に立つ人間は、更に上を目指して考えていると気づかされる。辻堂も国王も同じように、更なる上を見て常に考えているのだろう。大きな器を持っていると思う。そして、自分は小さな人間だなと歩は感じる。この広い世界では、ギフトがある、無しはそんなに大きな問題ではないようだ。
ギフトを自分の意思で手放した男と、
ギフトには最初から頼らない男。
違うようで似ている。自身の力で切り開いていく力強い意志を持っている。
「ここは星が綺麗に見えますね」
気がついたら、空には無数の星が広がっている。歩は空を見上げていたら、ウトウトと眠くなり、そのまま眠りに入ってしまった。
辻堂が寝ている歩を抱き上げ、比較的大きなテントへと連れて行く。
ベッドに歩を寝かせ、辻堂も隣に仰向けになる。ドームテントの中には天窓がついていた。星空が大きく見える。
「この国は、昼も夜も明るいな。歩…」
夜明けまで歩は起きることは無かった。
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