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第26話
「社長、もう間も無くメンテナンス終了します」
王宮に到着して早々、メンテナンス部隊から、辻堂は報告を受ける。ギフトメンテナンスを受けているのは、ブラン共和国の小柄な女性で、プカ言語ギフトの持ち主だ。
メンテナンス終了の知らせを受け、国王と辻堂、歩は彼女と面会をする。
「気分はどうだ?」国王の問いかけに
「スッキリしています。今までは頭が重く、厚い雲の中にいるようでした。それが今は無くなっています」ハッキリとした口調で、ブラン語で国王と会話をする。記憶にも障害はなく、今まで通りだ。
続いて歩がプカ語で会話を始めた。
『はじめまして。僕の言葉わかりますか?』
女性は目を見開き、『わかる…わかるわ』と感動している。
その後もブラン語、プカ語と交互に話をしても混乱することなく、使い分けることが出来ていた。
「成功だな」と辻堂が言えば、メンテナンス部隊、国王、そこにいるみんなが歓喜に沸く。
ギフトの障害は急に始まったようだった。わけがわからず、毎日泣いていた。自分が何者でもなくなった感じがしていて怖かったと女性は言っていた。
『それにしても、可愛らしい言葉ですね』と、女性からプカ語で歩は話しかけられた。
『メンテナンスが不足ちてるので、言葉が赤ちゃん語でちゅ』と歩がシュンとして謝ると「うううーんっっ」と彼女も、やはり悶絶していた。
緊急会談を開いた。オンラインで政府と国連に参加してもらい、今の現状を伝える。画面越しだが、皆が安堵したのがわかった。今後は、フォルス社のメンテナンス部隊を交代させながら、政府と国連主体で、プカ民族を含むこの国全員のメンテナンスを行うことになった。簡易的なものではなく、質の高いメンテナンスをすると、辻堂は国王に約束した。
予定通りと、吉川は机の下でガッツポーズをしていた。
全てが順調に進んでくれたおかげで、明日無事に帰国することができる。これからこの国で、最後のディナーに招待されている。
辻堂と歩は、国王の側近にボックスを渡された。
「こちらは、プカ民族からのプレゼントでございます。辻堂様と歩様に是非渡して欲しいと言われております」
箱を開けてみると、光沢があり滑らかな生地に、目を引く刺繍が鮮やかな服であった。
「この国の民族衣装だ。是非、それに着替えてディナーに来てくれ」
と国王から言われる。
「はい。承知いたしました」
歩は嬉しくなり、元気に答えた。
部屋に入り着替えたところで、後ろから声がかかった。この部屋はブランに来て最初に宿泊させてもらった時と同じ部屋である。外の入り口は別々だが、中は繋がっているので、辻堂と歩は同じ空間に、常に一緒にいることになる。
「歩、着替え終わったか?」
「はい。準備出来ました。この服とっても着心地がいいです。通気性がいいのかな。気持ちが楽になります。あれ?伊織さんのは、金の刺繍なんですね。僕のは緑の刺繍です」
「ん?」
「え?」
辻堂が考えるようにじっと、歩の首回りを見ている。
「目立つな…」
歩の鎖骨辺りを、辻堂が指先で撫でながら呟いた。
女性のワンピースのようにストンとし、首回りが広く開いていてるこの民族衣装は、きっとこの国の風土に適した服なのだろう。普段、首回りが出る服を着ることはないので、何か付いてるかなと鎖骨辺りをさすりながら、歩は鏡を覗き込んだ。
「ひぃっぁ」
そこには、まだ新しいものと、消えかけてうっすらと色が残る古いもの。辻堂が吸い付けたキスマークが鎖骨に乗っていた。昨日とその前のもの、いや、いつのだかもうわからない。
「…みんなのところに出て行けないです…」
「堂々としてれば問題ない。誰もキスマークだなんて思わないだろ」
「キ、キ、キスマークって」
下にティシャツを着ようかと試してみる。でも、隠せば隠すほど、不自然になる。
「よせ。隠そうとすると余計にそこが気になる」
腕を組み、余裕ある態度で辻堂が呟く。
(…ううぅぅ…言うことがいちいち正しいんだけど…そういうことじゃないし)
恨めしい顔で辻堂を見る。
「ディナーでございます」
ロイヤルバトラーに呼ばれ、歩は諦めてそのまま出ていくことにした。
「俺が隣にいるから堂々としてろよ」
そう言う辻堂の横顔を盗み見ると、上機嫌な顔をしていた。
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