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第32話

車で2時間程走った所にあるレセプションパーティー会場は、夕方到着した時には幻想的な雰囲気にライトアップされていた。グランピング施設の宿泊は、ドーム型のテントらしい。点々と建ててあり、あちらこちらで食事の準備をしていた。キャンプより少し贅沢な食事のようである。屋外のテーブル上には、フルコースが出されており、大勢の人がワインを片手にパーティーを楽しんでいるようだった。 「ここはね、結婚式も出来るんだって。宿泊はドームテントなんだけど、冷蔵庫もあるし、エアコンも付いてるからオールシーズン快適らしいよ。大自然の中でこんな贅沢、オシャレだよね」 前園は、ウキウキとした足どりでパーティーのホストを探している。 「宮坂くんは、ここに今日泊まってね。 僕はね、あっちのテントだよ。夕ご飯は一緒に食べよう。後で来るから待っててね」そう言って、前園はウキウキと歩いて行った。 まわりを見渡せば大きな山が見える。 ブラン共和国を思い出させる光景だった。 何をしてもどこにいても、辻堂を思い出すきっかけになってしまう。傷を癒すには、時間がかかりそうだ。 テントの中に入ると圧倒的な解放感がある。なるほど、結婚式を上げた後、スイートルームとして使うのかと、歩は感心する。好きな人と大自然の中でゆったりとロマンチックに、こんなに素敵な場所に泊まれるなんて幸せだろうなと考えていた。 ここに一人で泊まるのは広すぎて、ちょっと寂しいなとも思う。 「さあ、宮坂くん。ご飯食べよう」 前園がテント前のテーブルに誘ってくれた。 「美味しいですね。外で食べるのも最高です。今日は誘ってくれてありがとうございました」 今朝からまともにご飯は食べてなかったっけと改めて歩は思い出した。 「なんだかわからないけど…宮坂くんを悲しませることは許さんよ。僕は宮坂くんを息子だと思ってるんだからね」 「前園さん、そんな年じゃないでしょう」 「だったらお兄さんでもいいよ。とにかく、何でも相談してくれると嬉しいな」 「ありがとうございます。本当に何でもないです。最近は体調も良くなったし、仕事も楽しいですよ。薬も飲まなくなりました」 「だったら尚更だねぇ…」 前園にはわかっているんだろうか。 俯き気味の歩の前で、前園が急に大きな声を上げた。 「辻堂くん、こっちだよー」 スーツ姿で走っている辻堂の姿が見えた。誰かを探しているような、あんなに必死な辻堂は初めてだった。

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