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第33話
息を切らし、目を逸らさず辻堂は真っ直ぐ歩いてくる。獲物を見つけたハンターのようだ。
「歩…お前どうして待っていなかったんだ」
「えっ?伊織さん、なんでここに来てるんですか?仕事ですか?」
「何言ってんだ。お前を探しにきたんだろ。何処にいるのかわからず、焦って探してやっとここまで辿り着いたんだ」
辻堂がなぜ自分を探しにきたのかわからず、
歩は固まったまま辻堂を見上げる。
「はい。ちょっと待った」
前園が間に入り、辻堂をつかまえる。
「とりあえず、辻堂くんここに座って。そしてなぜ、辻堂くんが宮坂くんを探しているのか教えて。それから、これ以上宮坂くんを悲しませたら、僕が許さないからね」
いつになく厳しい口調で前園が辻堂に言う。
「歩、帰ってきたら話をしようと言ったよな。俺は今日、家に帰ってお前からのメモを読んだ。今までありがとうございますって、これから元に戻りますって、なぜ、家を出て行かなくてはいけない。
俺にはわからない。教えてくれ」
怒るような口調で辻堂が感情的に言う。
目を逸らしたくなるくらいだった。
「だって、伊織さんにはお世話になったでしょう。僕の体調を心配してくれて、治してくれて感謝してます。だからもう大丈夫ですからっ、自宅に戻って今まで通り一人で暮らせます。伊織さんだって、それを望んでいるでしょう?」
思わずこちらも感情的に言い返してしまう。
好きな人を前に泣きたくはないが、どうしても胸が痛み涙が滲む。
「俺はそんなこと望んでいない。
歩…なんで泣く。また症状が出てしまうだろ」
辻堂が立ち上がり、距離を詰めてきた。
頬を撫でようとする辻堂を、歩は拒む。
「それでもいいっ。また体調が悪くなってもいい。薬もあるし…なんとかする。
症状を抑えるためにって、あんなことは…あんなことは、好きな相手とだけして欲しい。好きでもない相手には、もうしないで」
辻堂の手が好きだ。
あの手で撫でられ、触られそしてキスをされるのも大好きだ。
でも、もう、好きでもないならしないで欲しい。これ以上辛い思いはしたくない。
「辻堂くん、君イケメンなのに残念だね。なんか肝心なことすっ飛ばしてない?」前園の、呆れた声が響く。
見つめられて、時間が止まったような気がした。
辻堂は歩を真っ直ぐ見て跪き、手を取る。初めてキスをした時と同じ体勢だ。
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、君を愛しこの命ある限り尽くすことを誓う。歩、愛してるよ」
プロポーズの言葉に聞こえた。身体が沸騰してしまう。自分に言ったのだろうかと、歩は辺りをキョロキョロと見渡す。
「歩、好きだよ。返事は?返してくれるか?」
「えっ…えーっと、僕も伊織さんが好きです」
やっぱり自分に言ったんだと、まだ半信半疑な歩は首を傾げて辻堂を見ている。
「い、いや、伊織さん…伊織さんには莉緒さんって恋人がいるんでしょ?メンテナンス一緒に入ったって…」
「は?何で今、莉緒の話が出てくるんだ。莉緒は俺の妹だぞ。昨日からメンテナンスに入ってたのは確かだ。あいつ妊娠中だから、お腹の子供のためにギフト無しの俺がメンテナンスに入ってケアしてたんだ。ちなみに、あいつの旦那も一緒にメンテナンス入ってたぞ」
「へっ?妹さん?ご結婚されてる?」
胸の痛みがなくなった。
「前園さん、色々ご迷惑おかけして申し訳ございません。誤解があるようなので、連れて帰ってもよろしいでしょうか」
歩の手を握りながら辻堂が前園に許しをもらう。
「うーん…複雑…本当に父親の気分だ。急に現れて、派手なプロポーズして、連れて帰られせてくれなんて。いいけど…これから先、泣かせたら絶対許さないからね」
辻堂は前園に深々と頭を下げて、改めて誓う。約束します、泣かせません、幸せにしますと…そしてもう離しませんと。
「それからさ、辻堂くん。ここね、結婚式も出来るんだって。第一号でやれば?紹介するよ」
前園が手をヒラヒラさせて言った。
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