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第41話 One year after story

スカイブルーのボックスに入った花は、溢れるほどになった。あの後、わらわらと多くのブランの人達がどこからか出てきて、みんなで綺麗な花を拾い上げ箱に詰めてくれた。 辻堂が「ありがとう。俺の好きな人はきっと喜ぶよ」と言うと、みんな嬉しそうに笑顔で頷いていた。 ドームテントに戻ったが、まだ歩は寝ている。昨日疲れさせたこともあるが、その他にも疲れが溜まっているんだろう。少し心配になってしまう。 「歩…起きるか?仕事、何時からだ?」 「はっ!仕事!あ…まだ大丈夫です。よかった…いっぱい寝てしまいました」 慌てて起きたがまだ時間はあるとわかり、ぼけっとしている。そんな歩を見るのも久しぶりだった。 「昨日、無理させたな。悪かった」と、辻堂はベッドに腰かけプレゼントボックスを歩に渡した。 「わぁ!これ、プルメリアですね。外にたくさん木があるんです。すごく綺麗です。あれ?伊織さん外に行ってきました?」 まあなと、曖昧な返事をして歩にキスをする。抱きついてきた歩が「もうちょっと二人でいたいな…」と独り言のように耳元で囁いていた。 「朝食は一緒に食べれるのか?」 「はい。今日は昼前に行けばいいので、朝は一緒にご飯食べられます」 「そうか、俺はその後ここで仕事してるよ。お前の仕事が終わるのを待っている」 好きな人に会えたのは大きい。気持ちが前向きになるのを辻堂は感じていた。歩も同じ気持ちならいいなと思う。 その日の夜、歩が辻堂の滞在先ドームに来て早々話始める。 「今日、仕事場に行ったらブランの人達が興奮して僕に話し始めたんです。絶対、伊織さんですよね?」 職場に行った歩を捕まえて、「手伝いが出来た」「言語ギフト無くても意思の疎通が出来た」とブランの人達が興奮気味で口々に言ったそうだ。 早朝掃除をしていたら、プルメリアの花を集めて好きな人に渡したいという人に会った。結婚式で使っているボックスがあるのを思い出し、それに花を詰めてもらいたいと考え、ボックスをひとつ貰っていいかとドームの支配人に聞きに走ったという。 英語の言語ギフト持ち主のブランの人と、英語はわからない支配人との意思の疎通は、ほぼジェスチャーだったと、笑いながら支配人は後から歩に話していたそうだ。 だけど、何となくニュアンスがわかり、支配人がボックスをくれたので、花を集めている人に渡せたと言う。 そのやり取りを見ていた人も外に集まり、みんなで花を拾い集めボックスに入れた。 最後にその人は「俺の好きな人が喜ぶよ。ありがとう」と言ってくれたと大興奮していたそうだ。 閉鎖的な場所で育ったブランの人が、初めて異国に来たので、人と人のイレギュラーなコミュニケーションも初だったようだ。 人の役に立てたという喜びの気持ちが増えたのは大きな一歩だと、歩は話をする。 しかも、嬉しかったのはブランの人達だけではなく、一緒に働くこの国の人達も同じ気持ちだったという。お互いコミュニケーションが取れたとわかり、ハイタッチしてたと歩は笑いながら話をしている。 「そうか…頑張ってるな。歩先生」 「ほら!やっぱり、伊織さんだ。この話聞いて、今朝プレゼントで花をもらったよな?って思ったんです。しかもボックスに入ってたし。もう!今朝言ってくれればよかったのに」 歩が生き生きとして仕事しているのを見れた。それは辻堂にも励みになることだった。

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