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第43話 One year after story
ブラン共和国では王族はギフトを持たないと国王であるルカから聞いたことがある。
実際、国王のルカもギフト無しだ。
ギフトを持たない者が身近にいてもそんなに驚くことはないはずだが、ブラン共和国出身のヨウとサンは驚いていた。
辻堂が誘ってすぐにヨウひとりで辻堂が宿泊しているドームまで来た。相変わらず何か言いたそうな顔をしている。
「いいぞ、入れよ。仕事終わったのか?」
声をかけてあげると、頷きながらドームの部屋に入ってきた。部屋のキッチンに置いてある紅茶を入れるといい香りが広がる。
「伊織は何でブラン語を話せるんだ?ギフト無しなのに」
部屋に入って早々、ヨウが口を開いた。
ブラン語ではなく、英語で話しかけてきた。
「コツを知ってるからだ。多分俺は、人より語学を習得する技術を持っていて、早く理解が出来るんだろう。初めて聞く言葉でも少し話をすればコツを掴む。そうして使ってるうちに話が出来るようになるんだ」
紅茶を渡すと素直に受け取るが、ヨウは黙って聞いているだけだった。何かあるのかもしれないと、辻堂はヨウを見ていて考えていた。
「お前いくつだ?」
「23歳になった」
「ちょうど今のお前と同じころに俺はギフトを手放した。そうか…23か、若いな。何でも出来るし、身体も動けて身軽な頃だよな」
23歳の頃の自分を思い出す。毎日つまらなく、もがいていた頃だ。あの頃の自分と今のヨウをダブらせて見ていたのかもしれない。
「やっぱり伊織も言語ギフトを持っていたのか?」
「いや、違う。俺のは特殊ギフトだ。その持ち主が23歳になった時、自身で能力を一つ選択できるというギフトだった。それを俺は手放したんだ。だからギフトを持っていても使った事はない」
「なんで!そんな凄いギフトを何で手放す必要がある?おかしい!」
ヨウがムキになって辻堂に突っかかってくる。ギフトの話を聞きたいのがわかる。
「そうか?そんなに凄いと思うか?俺には必要なかったな。それより自分で好きな事をしたかった。ギフトに左右されることなく、何でも自分で選びたかった」
ゆっくりとした時間はまだ流れている。ドームの中も空気は澄んでいて気持ちがいい。
「ヨウ、お前は何を悩んでいるんだ?」
いつもなら、他人にこんな質問はしないだろう。自分からそこまで他人を近づけることもしないし、実際ヨウはそこまで親しくもない。
自分らしくない行動をしていると思う。不思議だった。のんびりとしている場所にいるから、いい人になったつもりで、ヨウに話しかけたのかもしれない。
「俺の国では…」
ヨウの口から国にいた時のことを話し始めた。
ブラン共和国にいた時は、周りはほぼ全員ギフトを持っていた。ごく稀にギフト無しがいるが、仕事をするにもギフトが必要な場合が多く、ギフト無しはあぶれてしまうという。
この前、ブラン共和国でギフト障害が発生した時、言語ギフト保持者のほぼ全ての人に障害として影響が出た。
その時、影響なく言語を使用できていたのはヨウとサンだったという。
「俺たちもギフトメンテナンスというやつを受けた。だけど…受ける前と受けた後と何にも変わりはない。多分、俺たちはギフト無しなんだと思う…」
ヨウとサンは英語を使える言語ギフト保持者だと聞いていた。だが、ヨウの話からすると、恐らくギフト無しで間違いないだろう。本人も自分の身体に何らかの疑問を感じているようだった。
だとしたら、彼らが問題なく英語を使えるということは、誰かが意図的に彼らに英語を習得させ、完璧に使いこなせるようにしていたといったところだろうか。
幼い頃からの英才教育であれば、彼ら自身も気がつかずに英語を習得し、過ごしていたと思われる。そして彼らには言語ギフト保持者だと伝えていたのかもしれない。
「そうか、なるほど。それで、俺のこと知ってるんだな」
こくりとヨウは首を縦に振った。
「伊織がブランのギフトメンテナンスをしたのも知っている。そこの社長だという話を聞いたんだ。だけど、ギフト無しだとは知らなかった。俺たちが本当にギフト無しなのかどうか、伊織ならわかるのか?」
「ギフトを持っているかどうかは、調べればわかる」
紅茶が冷えてしまったので、もう一杯入れることにした。最近は家でもよく家事をするようになったなと、辻堂は思い出していた。
「ヨウ、それは必要なことか?ギフトは入れる事も、ギフトの内容も自分で選択することは出来ない。産まれた時に与えられるものだ。だからギフトと呼ばれている。人はそれを使うか、使わないか自分自身で最終判断をする。世界中の多くの人はギフトを持っていて、それを使っている、それも選択のひとつだ。だが重要なのはその後、それをどうするかだ。言語ギフトを持つ人は、言葉をその国の言語に訳すだけか?通訳はその人の思いを伝える。その人の価値観に寄り添うって歩先生が言ってなかったか?」
通訳として思いを伝える、歩に言われたことを思い出しヨウに伝えた。
「そう言ってたよ。俺は異国に来て、ブラン人以外の人とコミュニケーション取ったのは初めてだったから、それを教えてもらった。それから歩先生に通訳は相手の意図を読み取り、思いを伝えることが出来るんだよってことも教えてもらった。ただ会話を訳すだけじゃなくて、一歩先を見て考えるんだよって。それが出来ると思いを伝えたい人を救うこともできるって」
歩の話になるとヨウは笑顔になる。ここに来て歩は色んな人と話をし、教えていたのだろうことがわかる。歩の生活がわかり、少し嬉しくなる。
「だけど…ギフト無しだとわかったら…伊織、俺たちに今からギフトを入れてもらえないか」
「お前はもう英語を使える。俺と話していてもノーアクセントだ、問題ない。ギフトを持っているかどうかなんて関係ないんじゃないか?持っているギフトを使わない人も世の中には沢山いるぞ。それと、俺にはギフトを入れることは出来ない。ギフトをメンテナンスする会社の社長だからな、医者じゃない」
きっと、歩が聞いたら同じことを言いそう伝えるだろうと辻堂は思っていた。これからきっと世界では、ギフトの持ち方は変わるはず。
「ギフト無しだってわかったら、兄さんに迷惑をかけることになっちゃうんだ」
俯いてボソボソと話しているヨウは、どうしたらいいかわからない顔をしている。ここに来て、働いていても不安は拭えないのだろう。
「兄さんがいるのか…きっと、その人はお前達を不自由にしないために、英語を身につけさせたのだろう。期待に応えてやればいいじゃないか」
時間はかかっても、いつか自分の道を堂々と歩いていければいいんだ。ヨウにはそう伝えたかった。
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