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第45話 One year after story
歩を連れて帰る日になった。やっと歩を連れて帰れるという思いと、結構のんびりここで歩と過ごせたなという思いの両方ある。どっちにしろ、歩と過ごすことには変わりない、自分の考えの薄さに笑ってしまった。
ここにいると規則正しい生活なので、朝早く目が覚める。家ではない、別の場所だからかもしれない。
昨日の夜、大きなスーツケース二つを持って歩がここまで来ていた。今日はここから帰宅することになる。
隣に寝ている歩を見ると、うっすら口を開けてすぅすぅと気持ちよさそうにしている。キスをすると起きてしまうと思い、そのままこっそり辻堂はベッドを抜け出した。
ドームの外に出たら仲良くなったブラン人のヨウとサンに会った。
おはようと声をかけると、人懐っこいサンが笑顔で近寄ってくる。
「おはようございます。今日は朝一番に、結婚式があるんですよ。だからみんなでプルメリアをたくさん集めてるんです」
「多分、その結婚式は俺だ。結婚式っていうか、プロポーズのやり直しかな…」
辻堂がそう伝えるとサンはびっくりした顔をして驚いている。サンのそばにいた兄のヨウも同じく驚いた顔をして固まっていた。
「ええーっ!そうなんですか?それは、大変です!プルメリアをもっとたくさん集めないと」
サンは慌てて周りのみんなに声を掛け、綺麗なプルメリアをたくさん集めて!とブラン語で言い、そのまま走って遠くの人にまで声をかけて行ってしまった。
その場に残ったサンの兄であるヨウに辻堂は話しかけた。
「お前の方はどうなんだ?」
歩きながら二人で話し始める。
「伊織、俺はもう決めたんだ。あの後、色々考えてさ…ギフトを持っているのか、いないのかは、やっぱりハッキリさせるよ。だけど、持ってないってわかってもギフトを入れることはしない。俺はもう迷わない。自分に嘘はつかず、自分のしていることに喜びを見出すことにする。伊織のように」
真っ直ぐに辻堂を見てヨウはそう言った。何か決意したようで顔つきも変わっている。ブラン人の誠実な印象は、今も以前も変わりない。
「そうか。お前はこれから何者にもなれるんだな」
辻堂の一言でヨウは笑顔になった。そこに弟のサンが息を切らして戻ってきた。仲良くなった辻堂のために、プルメリアをたくさん集めたと言い、カゴにいっぱい入っているのを見せてくれた。
「君たちの名前はヨウとサンだろ?俺の住むこの国ではヨウは太陽を意味する。サンは英語で太陽だよな。明るく大地を照らす太陽だなんて君たちにぴったりな名前だ」
そんなこと初めて言われた!と、サンが感動し、持っていたカゴに入っている大量のプルメリアを放り投げ、兄のヨウに抱きついている。ヨウは困ったような照れたような顔をしながらも頷いていた。
「この後の、俺の結婚式には君たちと、他のブランの人たちも来てくれと伝えといてくれるか?」
きょとんとした顔をしている二人を残して辻堂は、歩が寝ているドームに戻った。
ベッドではまだ歩が寝ていた。中々起きる気配はない。寝顔を見ていると、今までの事を思い出す。
歩は夢精をしていた頃もあり、自分のギフトと上手く付き合っていなかった。自信もなく一緒に暮らし始めた頃はオドオドして、少し幼くかわいらしかった歩も今では『歩先生』と呼ばれる程、大きく成長している。
辻堂は、歩を自分の手の中にずっといて欲しいと思う反面、ひとり飛び回って仕事をしている姿が頼もしく誇らしくも思う。
人は、一度経験した道は通りやすいという。歩と次はどんな経験を一緒にするのか楽しみだ。
朝一番で場所を貸して欲しいと、施設にお願いして抑えている。貸りた場所がチャペルなので、ブランの人達は「結婚式がある」と言っていたが、辻堂の気持ちを伝え改めて歩にプロポーズしたいと思っている。
歩には、チャペルに行こうとまだ伝えていない。サプライズというわけではなく、何となく言い出しそびれている。
それに、プロポーズのやり直しをして、万が一断られたらと思うと少し怯んでしまう。
ベエラ王国での仕事が終わり、ここに来る前パリに寄って指輪を買っておいた。プロポーズのためのエンゲージリングではなく、二人そろってするマリッジリングを買ってしまい、よく考えると順番を間違ったかもと辻堂は考えていた。
仕事以外でこんなに頭を悩ますことはしたことがなかった。自分もまだまだ知らないことがあり、怯んだり怖くなったりする気持ちがあると思うと少し可笑しく感じる。
そんなことを歩の寝顔を見ながら考えていたら、もぞもぞとベッドの中で動き出したのがわかった。
「歩…おはよう。起きるか?」
「…っん、おはようございます…」
忙しそうにし、少し痩せたわりには血色はいいように見える。歩は案外タフである。
「朝食を取ったら、少し俺と一緒に行って欲しいところがある」
これだけの言葉を伝えるだけなのに、緊張してしまった。
キョトンとしている歩は、朝食のベーコンを食べながら「いいですよ」と答えている。
緊張が歩に伝わらなくてよかったと思っている。
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