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第46話 One year after story
二人並んでドームの外を歩いていく。ザクザクと、土を踏む音が気持ちいい。
「ほら、見てください。プルメリアの木がたくさんあるんです。この先でブランの人達の施設がオープンするんですよ」
歩きながら説明を受ける。数えてみると結構長い間、歩はここに滞在していたことになる。
チャペルが見えてきた。周りにはブランの人達がたくさん待っていてくれている。
「あれ?みんな集まってる。何かあったのかな…」
歩は不思議そうに呟き、少し心配そうにみんなの姿を眺めていた。
辻堂が歩の手を取り、チャペルへ向かって歩き始めた。ブランの人達が辻堂と歩の姿を確認し驚きの声を上げている。
これから『結婚式』をする二人が、毎朝プルメリアを集めていた人で、その人の相手が歩先生だとは思わなかったのだろう。
サンとヨウの姿も確認出来た。サンは誰よりも大きな声を上げて驚いているが、ヨウは隣でゲラゲラと笑っていた。
歩の手を取りやっとチャペルの近くまで来ることが出来た。
「みんな、ちょっと待っててくれよ」
辻堂がブラン語で皆に伝えると、歓声がワアッと湧き上がった。その声の中には、『歩先生だ!』『びっくり!』『うそ!』という声も混じっていたが、『頑張れよ』という声も聞こえた。
その声の方を向くとヨウが叫んでいたのがわかったので、辻堂は手を上げて応えた。
「ちょ、ちょ…ちょっと、伊織さん!」
歩を見ると真っ赤になっているのがわかる。何だかよくわかってないのだろう。
チャペルの中に入るが、そこには誰もいない。静かなチャペルの祭壇の前で、二人は立ち止まった。
ステンドグラスが美しい。
圧倒される美しさに目を引かれる。ヨーロッパの古い大聖堂を思わせるようなクラシカルな雰囲気だ。
歩は相変わらず赤い顔をしていたが、さすがにここまで来たので、これから何が起きるかは、少しわかってきているようだった。
「歩…もう一度プロポーズのやり直しをさせて欲しい。俺にとっての幸せはお前と一緒にいることだ。だからこれから先も生涯俺と居続けてくれますか?」
両手を握り、歩を見つめて伝える。
「…はい。伊織さん…僕は生涯伊織さんのそばに居たいと思います」
辻堂を見上げたまま、歩は答えてくれた。
「私、辻堂伊織は宮坂歩を一生愛し続けることを誓います」
両手を握ったまま誓いの言葉を口にする。歩が指先でギュッと手を握り返してくるのがわかった。
「私、宮坂歩は辻堂伊織を一生愛し続けることを誓います」
震える声で歩も誓ってくれた。
ステンドグラスから日が差し込んでいる。祭壇の前で辻堂は歩にキスをした。
キスをした拍子に歩がカタカタと震え出したので、チャペルの長椅子に座らせた。
「どうした?大丈夫か?」
「へっ?もう、びっくりしちゃって…き、緊張した…足がガクガクしちゃいました。チャペルの祭壇の前に来るのなんて初めてです」
「俺だって初めてだ。緊張した…俺が勝手にやりたかった『神聖な誓いの儀式』ってやつに付き合ってくれて、ありがとうな」
それと…と言い辻堂はマリッジリングを出し、歩の指にはめてみた。
それは少しサイズが大きく、そのままつけると、指からするっと落ちてしまう。ガッカリとした気持ちもあるが、サイズも確認しないで買ったのだから、こうなるかとも思う。
「すまん。ちょっと大きかったか…サイズを直してもらうとするか」
「い、伊織さん、な、何これ?うう…」
ぼろぼろと涙を落としながら歩が聞いてくるのは、指輪のことだった。
指輪はここに来る途中で買ってきたが、サイズは大きかったなと言うと、しゃくりあげるほど泣き始めてしまった。
「ゆ、ゆ、指輪…ううぅぅ…」
「プロポーズの返事をもらう前に買ってしまったんだ。結婚指輪だよ」
ほら、と自分の指輪もあると辻堂が伝えると、指輪を摘み上げて歩は見ている。
ボトボトと、歩の涙がリングケースに落ちている。
「ゔれ…嬉しい…うぅぅ」
「歩、俺ハンカチ持ってないぞ?」
「ぼ、僕のハンカチも…スーツケースの中です…ゔう…指輪…ぅぅ」
仕方ないので辻堂のシャツの裾で、目も鼻も拭いた。泣き止んでくれよと、言ってる途中で、チャペルのドアから覗く瞳と目が合った。
「あっ。歩、そういえば…みんなを待たせてたんだ」
待ちきれなくなったみんなを辻堂は笑顔で手招きをした。チャペルのドアから多くの人が、プルメリアを撒きながら走り寄ってくる。
「ええっ!みんな…ゔう…ありがと…」
歩と辻堂の周りを囲み、プルメリアのフラワーシャワーを浴びた。
「歩先生、おめでとう!」とみんな笑顔で口々に言ってくれる。
明るい声がチャペルを包む。これから生涯、歩を大切にするよと辻堂は、皆にも誓った。
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