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第47話 One year after story (Blanc)

「ええっ!マジか!なんだよ伊織...言えよ、全く...」 早朝、辻堂と歩の結婚式の写真が送られてきた。ベッドの中で、スマートフォンの写真を見てブラン共和国の国王であるルカは驚きの声を上げた。 「陛下...」 「あっ、起こしちゃったか?ごめんな。まだ朝早いからもう少し寝ていていいぞ。昨日は激しく愛し合ったからな。身体大丈夫か? 裸のままで寝てたから寒くないか?」 一緒のベッドに入っているイリアの肩にルカはキスをする。チュッというリップ音が思ったより大きく部屋に響く。 「これ...解いてください」 「んー?解いたら逃げちゃうだろ、お前」 イリアの手首はシルクの紐で拘束されている。拘束したのはルカで、シルクの紐はイリアのナイトウェアだ。 昨日の名残がある。イリアの身体には赤い点が鮮やかに付いている。ルカは、男の身体を美しいと感じたのはイリアが初めてだった。 昨夜、イリアはブラン共和国国王であるルカを殺そうとした。イリアはアサシン、いわゆる暗殺者だ。 そんなことは知っていた。知っているが今までずっと知らないふりをして、ルカはイリアを近くに置いていた。裏では強請られ操られ、ここ数年悩んでいることも知っている。 イリアを暗殺者として王宮に送り込んで来た奴らを、やっと昨夜、始末することができた。 暗殺者として王宮に入りこんだイリアだが、どんな時も王に忠実であり続けルカの側近という立場を貫いていた。 ここ数年は国の状況を立て直し、体制を整えるなど一緒に活動し行動を共にしてきており、去年発生したギフト障害も解決している。後は国の繁栄を願うだけだと、つい最近までイリアはベッドの中で嬉しそうに話をしていた。 王の首を狙っているとはいえ、この国を良くしていきたいという気持ちはイリアも同じだったと思う。聡明であり、国の発展に関してはルカのよき理解者である。 そんな真っ直ぐなイリアにルカは徐々に惚れていき、側近として近くに置きながら、 ベッドを共にする関係にもなっていった。 この関係になって一年以上になる。 ベッドでルカに抱かれても、王の寝室で寝ることはせず、事が終わるとスルッと抜け出し、イリアは自室に帰って行く。 いくら抱き潰しても、夜のうちに戻って行ってしまうため、ひとりベッドに残されたルカは何度溜息をついたかと思い出していた。 この一年、ルカを殺そうと思えばいつでもベッドの上で殺せたはずだ。タイミングはたくさんある。それなのに、イリアはしなかった。 きつく抱きしめ合い、濃密な時間を過ごしてきた。キスをすれば返してくれて、抱き合い、二人で何度もベッドを共にしている。 ルカはいつも本気でイリアを口説いている。「好きだ。愛している」と何度も口にし伝えているが、イリアは本気にしていない。 それでも、これから先この国を繁栄させていき、いつも隣に一緒に立っていて欲しいとルカはイリアに何度となく伝えていた。 ただ、昨日はいつもと違った。 イリアのいつもと違う態度に、他の側近や護衛らも気が付いていた。 王と二人きりにはならないようにと、警戒していたが、国王であるルカはいつものようにイリアをベッドに誘った。 今思い返せば、昨日イリアは挑発的にルカをベッドで誘惑していたように思う。 頑張ってるなと思い、下から腰を強く叩きつけた時、隠していたナイフを泣きながらイリアは掴んでいた。 だから、ルカはイリアを抱き潰した。 翌朝まで動けないように、ルカの本気を伝えるように、好きだと言いキスをし、涙は吸い上げ、イリアの奥にルカは精を何度も放った。 「ごめんな。お前にそんな顔させて。俺がもう少し早く行動すればよかったな」 もう一度イリアの肩にキスをしながらルカは呟く。寒くないようにブランケットをかけてあげた。 「陛下、早く私を始末してください」 「えっ?始末?なんで?俺は何度もお前に愛してるって言っただろ?」 「だから...昨日、私は陛下を殺そうとしたんですよ。私は暗殺者です。わかってます?」 「うん、知ってる。愛してるよイリア」 まだ泣きそうな顔をしているイリアにキスをした。驚いたイリアの顔が幼い。それもまた可愛いと思う。 「愛してるってふざけてるんですか?陛下は私のこと何も知らないのに、よくそんなこと言えますね」 声を震わせて言うイリアを見て、思わず抱きしめてしまった。君が大切だと、伝えているのに何故伝わらないのだろう。 「知ってるよ?うーんと、好きだというと頬を赤くさせて、愛していると言うと少し寂しそうにするが、俺が背を向けてる時は嬉しそうな顔をしているとか。イリアの肌にキスをするとすぐ赤く残ってしまうとか、右より左の乳首の方が感度がいいし、セックスは後ろからするより向き合ってするのが好きだろ?あとは...」 「そうじゃなくて!私の本当の名前も知らないくせに」 「イリーナ・ディビフォルだろ。あのな俺、一応この国の王なんだよ。知らないわけないだろ。俺を狙ってる暗殺者なんて過去にもいたんだから。うちの側近が調べるに決まってるって。な、イリア」 イリアが涙を堪えて睨んでいる。 そんな顔もかわいいなと思うほど惚れている自分は重症だとルカは考えていた。 だから思わずベッドの中で強く抱きしめてしまう。 「それからな、セックス中に殺そうとするのはやめてくれよ。俺は愛してるって言ってるのに、お前は違うこと考えてるってことだろ?結構ショックだぜ」 なっ?と言ってもまだ目に涙をいっぱい溜めてイリアはルカを睨んでいる。 「お前が脅されて俺を殺すように言われていたのも知っている。だがな、もう問題は解決しているんだ。お前を強請っていた奴らは昨日捕まえている。だからもう自由だぞイリア。後は何だ?何が心配?あ、一番の心配はこれだろ?」 イリアには弟が二人いる。ブランの中で彼らが拉致される前に、ルカは他国に逃がしていた。 「うーんと...伊織の写真に一緒に写ってるぞ。ほら」 最近、ブラン共和国で流通されているスマートフォンの画面をルカはタップして、イリアに見せていた。そこには写真と動画が映し出されている。 「ヨウ...サン...なんで?どこ?」 イリアが食い入るように画面を見ていた。 「国内にいるとイリアも彼らも危ないからな、海外に脱出させておいた。元気に働いて頑張ってるって聞いてる。話もできるから。そうだ、オンラインで繋げるか?あれ?時差って何時間だっけ?」 「陛下...他国で働く場合はギフト保持が条件だと聞いています。ヨウとサンは...」 慌てたようにイリアがルカにすがりつき聞いている。イリアの言いたいことはわかっている。 他国で働く場合、ギフト保持者であることが条件だ。万が一、ギフト無しが無断で他国に行き働いたことがわかった場合は、始末する。それは世界的にギフトのルールだからだと、いうことになっている。ただそれも、国王であるルカがワザと流した噂だった。本当はそんなルールなんてものは無い。 「二人のギフト無しのことか?すげぇよな、ギフト無しでもNOアクセントで発音に問題ないって歩が言ってたぞ。かなり努力したんだろう。お前もそうだもんな。努力して勝ち取ったか」 「し...知ってる...? ギフト無しって」 「イリア知ってるか?俺もギフト無しだぜ。ギフトがあるなしは、大きな問題ではない。あればそりゃ便利だよな。ただそれより大切なことは、どう生きていくかだ。ギフトが無いのにここまでよくがんばったな、彼らを誇りに思うよ」 さあ、後は何か質問はあるか?と、頬にチュッと音を立ててキスをする。 「裸のままじゃなぁ…手首はちょっと待ってろよ朝食の所で解いてやるから」 よし!とシーツでイリアをぐるぐる巻きにし、大切に抱きかかえてドアまでルカは歩いて行った。 「ちょちょ、ちょっと!やめてください。このまま外に出れません。みんなに見られます!」 「えっ?このドアの向こうは、みんな跪いて出てくるのを待ってるぞ?もういいだろう。俺はお前のことが好きだってみんな知ってるし…毎晩、ベッドに誘って俺が離さないのも知ってるぞ?だから昨日俺は既成事実をつくったんだ。これで逃げられないぞ。身体中マーキングしたし。見るか?」 今まではずっとひとりで朝を迎えていたんだ。今日は逃がさないと、手首を拘束していた。これで部屋には帰る事ないだろう。許せと言ってルカは笑った。 イリアの全身にはキスマークがついている。以前、大きな犬はマーキングするんだって歩に伝えたことをルカは思い出した。 伊織のことを言えないなと少しルカは反省する。 「これからまた全力で口説いていくか… いつか愛してるって返してくれるかな」 イリアを抱き上げたまま、国王陛下のベッドルームを出て行く。 「いっしょに朝ごはん食べよう」 そう言って笑顔でイリアの頬にキスをした。

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