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第50話 One year after story
黒字続きなのに後継者がいない会社や個人技術者を救うため、ギフトの『マネジメント』と『紹介』などを持つ者が間に入り、会社や個人の技術が存続出来るようにする活動が世界的に行われている。
世の中には色々なギフトが存在するため、
そのような活動を通して、後継者が欲しい会社もギフト保持者がすぐに見つかる。また、働く側もギフトを活かす得意な仕事が出来ると好評だった。
景気が良くなり多くの企業が戻り返り咲いているような状況が続いている。
その一方で、ギフト無しの存在も世界的に浮き彫りになり、注目を集めるようになっていた。やはり世界中には一定数、ギフト無しの人がいる。
ギフト無しは、日陰の存在やアウトローと呼ばれることが多く、働く環境にも限りがあることが多かった。
フォルス社がブラン共和国のギフト障害の手助けをしてから一年が経ち、ブランの国王であるルカが声明を発表した。
『全ての人達が世界人権宣言に記されている全ての権利を享受すべきであると主張します。世界中のギフト無しと呼ばれている人達の人権侵害をなくすため、国際機関などへ働きかけを行っています。また、ギフト無しの人達の権利のために活動している組織や活動家をブラン共和国は支援しています。ブラン共和国国王ムエック・ルカ・カルパ』
以上の声明文と共に、ルカ自身もギフトは持っていないということを公表した。
このニュースに世界は衝撃を受けた。ルカの言葉に多くの共感を示す声が上がり、他国もブランを支持し始めている。新しい世界に生まれ変わりそうな感じがしている。
実際、ギフト無しの人が、ギフト保持者と同等レベルの技術を持っていたりすることも次々と公表されているため、若者の間では、ギフト無しがその分野の頂点に立つことがカッコいいといった声も出てきていた。
ギフト保持者とギフト無し、それぞれが得意な分野で生活出来るようになることが、世界の最終目標となってきているようだ。
そんな世界中の注目を集めているルカからオンラインに繋げてトークがしたいと連絡があった。完全なるプライベートだから、休日を教えてくれと言われていた。
恐らく、この前送った写真のこともあるのだろう。歩との誓い合った時の写真をルカには送っていたからだ。
今日、この後オンラインを繋ぐことになっていた。歩がリビングに食事の準備を始めている。その横で、辻堂がパソコンに繋げていた。
「伊織さん、ご飯を食べながら話をするのって失礼じゃないんですか?大丈夫ですかね」
「大丈夫だろ。この前、ルカから連絡がきた時、あっちはランチ中だったぞ」
時差があるので、こっちが夜の時、ブランは昼になる。結構頻繁に連絡は取り合っているが、いつもメッセージでのやり取りが多かった。だが今回はオンラインにしたいと強い希望があった。
「今日は、ヨウ君とサン君もオンラインに参加するって連絡があったんですよね?国王と知り合いなんでしょうか…」
「なんだかな。よくわからんが、知り合いなんだろ。ルカが仕切ってるからよくわからん」
歩に渡した指輪はサイズ直しも終わり、今はしっかりお互いの指にはまっている。キッチンにいる歩を後ろから眺めていた時、嬉しそうに指輪を見つめていた姿があったのを思い出していた。
「…伊織さん、それ…会社で何か言われない?」
「指輪か?いや、特に何も言われないぞ」
あまり見つめていたから気にしたのだろうか。歩から指輪のことを聞かれる。
辻堂が指輪をつけ始めたので、会社では少し騒ぎになっていると吉川は言っていたが、大したことないので特に歩に伝えることではないと判断する。
「お前は?誰からに何か言われたのか?」
「ひっ?えっ?えっと…うっ、まぁ、そうですね。会う人みんなに聞かれます」
ボッと火がついたように顔を真っ赤にして歩が答えている。可愛らしい。このままソファに押し倒してしまう。
「誰に何を言われたか教えろよ…」
両手首を掴み、歩の首筋にキスをしていたら遠くから声が聞こえてきた。
「…おーい、伊織…見えてるぞ」
チラッとパソコンの画面を見ると、頬杖をついて画面を見ているルカの顔が映っていた。
「いっ!国王!」
歩が辻堂を弾き飛ばして、ソファに座り直している。
「もー!歩先生!」
「あっ!サン君だ!ヨウ君も!元気?」
歩が嬉しそうに画面に向かって手を振っている。サンとヨウがひとつの画面に収まっている。三画面でのオンラインのようだ。辻堂も歩の横に座り直した。
「伊織!相変わらずそうだな…元気か?この前はびっくりしたぞ。もう、結婚するんなら事前に言えよな…ったくよ。あっ、そうだ。とりあえず紹介するな」
ルカが全体を紹介し始めた。ヨウとサンは既に面識があり、歩の仕事場では一緒だったのでわかるが、ルカの隣にいる人がわからなかった。
「…で、俺の隣にいるのがイリアだ。ヨウとサンの兄でもあり、俺の側近でもある」
「お兄さんなんですね…」と、歩が驚いて呟いていた。
よく見るとヨウやサンと似ている。そういえば、ヨウの口から兄がいると聞いたことがあったなと思い出した。
「…こんにちは。はじめまして…陛下、ブラン語で話していいんですか?」
イリアが画面に向かって挨拶をしていたが、言葉はどうするのかとルカに尋ねている。何となく、ルカの顔が締まりのないように見えるのは、気のせいなのだろうか。
「はじめまして!宮坂歩です。ヨウ君とサン君とは、一緒の施設で働いていました」
歩がブラン語で元気に答えていた。
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