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第14話どうして現れるんだよ★

 唇はすぐに離れて、でも俺はあっというまにパニックに陥った。 「え、あ……え?」  驚きすぎて変な声が出る。  俺、今、何された?  ……キスされた、よな?  え、なんで? 「あ、ごめんね、うれしすぎてつい」  つい、ってなに?  混乱した俺はどうしたらいいのかわからず、呆然と奏さんの顔を見つめた。  奏さんは、たしかに嬉しそうな顔をしているけど。  人に喜ばれるのなんてどれくらいぶりだよ?  ……覚えてない。  奏さんは俺から離れそして、立ち上がりながら言った。   「ごめんね、今日は帰るよ」  その言葉に我に返り、俺はふらふらと立ち上がった。  奏さんの車が去るのを見送り家に入ろうとしたとき。 「随分帰り早いんだね、あの人」  と言い、門から入ってくる人影があった。 「蒼……」  姿を見ただけで俺の身体は震えだし、動けなくなってしまう。  蒼也はゆっくりと俺に歩み寄ると、にっこりと笑って言った。 「俺もデートだったんだけど、駅前で兄さんたちを見かけたよ」 「べ、べ、別にいいだろ。俺が誰と出かけようと」 「兄さんの言ってた恋人ってあの人? にしては早くない、帰るの」  何が言いたいのかすぐに悟り、俺は首を横に振る。 「誰もがお前みてーにすぐセックスするようなやつじゃねーんだよ」 「アルファなのに? あ、でもアルファなのにベータの兄さんと付き合うなんて変わってるね」  それには理由があるが、そんなの言えるわけがなかった。  奏さんの力は切り札になり得る。  手の内は見せないようにしないと。 「お前には関係ないだろ。あの人は……奏さんはふつうの人なんだよ。俺が選んだ相手が、お前は不満なのかよ?」  すると、蒼也はあからさま不機嫌な顔をする。 「ねえ、兄さん。俺は兄さんの言う通り、オメガとデートしてきたよ。だから、ご褒美、くれないかな」  と言い、蒼也は俺に近づいてくる。  俺は思わず後ずさり、首を横に振った。 「もう、ここに来るなって言っただろ? 俺は、お前ともう寝たりとかしねえんだから」  俺の声は完全に震えていた。  俺の中にある、蒼也に対する恐怖心は、そう簡単にどうにかなるものじゃない。  だけど俺は、もう、蒼也に抱かれたくはない。  だいたいご褒美ってなんだよ。  オメガとデートなんて普通じゃねえか。  そもそもあれから一週間でそう言う相手を捕まえられるんだから、俺なんて相手にしなくていいだろうに。  蒼也が俺へと手を伸ばしてくるのを見て、俺は手袋に手を掛けた。  これを外せば、俺は蒼也に対して雷を放つことができる。  そうすれば、気絶させるくらいはできるはずだ。  でも。  蒼也は弟だ。  傷つけたくはない。  俺の迷いが、手袋を外すのを阻む。  それに気が付いた蒼也の目が、すっと、細くなる。  蒼也は俺の手首を掴み、顔を近づけて言った。 「ねえ、兄さん。なにを、考えてるの? もしかして、俺に、力を使おうとしたの?」 「う……あ……」  やばい、触られたらもう最後じゃないか。  嫌なのに。  俺には奏さんがいるのに。  心が蒼也を求めだす。  蒼也はにやりと笑い、低い声で呟く。 「おしおき、しないとかな」  心を支配された俺に、抵抗なんてできるはずなかった。  手首を拘束され、俺は後ろから蒼也に貫かれていた。  痛みに俺は涙を流し、でも心は蒼也を求める為、口から零れる言葉は全く違うものだった。 「イい……蒼、そこ……あぁ!」  前立腺ばかりを責めたてられて、俺はすぐに達してしまう。 「ははは。中、すっごい締め付け。ねえ、緋彩。こんなに淫乱なのに、俺なしで生きていけるの? あぁ、でもそうしたのは俺だっけ? あの人、誘惑したらよかったのに。そうしたら俺、諦めて帰ったのに」 「う、あ……あぁ……」  誘惑なんてできるわけがない。  俺は、蒼也とは違うんだから。 「緋彩の望み通り、ちゃんと俺、オメガとも付き合うよ? でも、緋彩は別だよ。緋彩は俺の兄さんだもんね。だから絶対に、離さないから」  そんなの変だ。  そう思うのに、俺は何も言えず蒼也に貫かれ、その精液を中に受け入れるしかできなかった。 「う……あぁ……」 「可愛い、緋彩。俺、緋彩の力、好きだよ? 綺麗で、蛍みたいでさ。覚えてる? 子供の頃の事。兄さん、暗い部屋の中で見せてくれたじゃない?」 「あ……あぁ……イってる……イってる、からぁ!」 「好きだよ緋彩。恋人の存在は許してあげるよ。でも、俺は、絶対に緋彩を離さないから」 「う、あ……」  何とかしないと。  俺は手袋をはめたままの手を見つめる。  この力を使えば俺は、蒼也に抵抗できるんだから。  腹の奥が熱くなるのを感じ、俺は蒼也が達したことを知る。  楔が引き抜かれて、俺はぐったりとベッドに横たわり、涙を流しながら蒼也を見つめる。  蒼也は笑って、俺を見下ろしている。 「蒼……」 「なあに、兄さん」  言いながら、蒼也は俺の頭を優しくなでる。 「俺を……解放して……? もう、俺は……お前なしで生きていくって……決めたん、だから……」 「……緋彩……何で、なの? なんで俺の気持ち、伝わんないの? 俺は、こんなに緋彩の事、大好きなのに」 「ひっ……」  蒼也は俺に覆いかぶさると、哀しげな瞳をして俺の足を抱え上げた。 「俺は緋彩が大好きなんだよ」 「俺はお前に兄じゃねえか。そんなのおかしい……あぁ!」  言っている最中に、蒼也は容赦なく俺の身体を貫く。 「緋彩の中、気持ちいい。俺のペニスに絡みついてくる。やばい、すぐ出ちゃいそう」 「う、あぁ……やめ……そう、そう……」  このままじゃだめだ。  このままじゃあ、ずっと同じことを繰り返すことになってしまう。  せっかく奏さんが協力してくれるのに、その思いを無駄にすることになってしまう。  そう思い俺は手袋を口で噛み、それを外した。  人前でこの手袋を外すのは初めてだった。  それに気が付いた蒼也は、驚きの顔をして俺の手袋のない手を見つめる。 「……緋彩……何考えてるの」  腰の動きを止めて、蒼也は悲しげな目を向けてくる。  俺は手袋をしていない手で蒼也の腕を掴み、そして、彼を睨み付けた。 「俺は……もう、迷わない、から。蒼也、もう、終わりに、するんだ」 「……本気、なんだね」  そう呟き、蒼也は俺の中から引き抜く。  声が漏れそうになるのをこらえ、俺は蒼也の腕を掴んだまま言った。 「蒼也……デートしたんだろ? 俺に対する行為は、その相手に失礼だろ。付き合うんなら、その相手だけを見てやれよ。俺に構うな」 「緋彩……俺は……」  悲しげな声で言い、蒼也は黙ってしまう。  これならもう少し押せば大丈夫だろうか。 「今日はもう帰れよ。こんな状態じゃあ、ゆっくり話なんてできねえから……外で、話そう。連絡、するから」  俺の言葉に蒼也は下を俯きそして、小さく頷いた。  あんなに強引だったのが嘘のように、蒼也は俺の拘束をとき、帰りの支度をしてすぐに帰ってしまった。  ひとりベッドの上に残された俺は、ぐったりと横たわり天井を見つめる。  そして、手袋をしていない手を目の前にかざした。  これで俺の本気が、蒼也に伝わったと信じたい。  あとはなんであいつが俺に執着するのか、その理由を聞きださないと。  大丈夫。俺にはこの力があるし、暴走しそうになったら……奏さんが止めてくれるから。  俺は手をぎゅっと握りしめ、身体を起こしふらふらと風呂場へ向かった。

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