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第21話告白

 奏さんの部屋は、いい匂いがした。  広いリビングには二人がけの紺色のソファー、それに大きなテレビ、ゲーム機もある。  ゲームするんだ。  ちょっと意外だった。 「飲み物用意するから座って待ってて」 「あ……はい」  言われて俺は、ソファーの端っこに腰掛けた。  落ち着かない。  さっきの車の中での出来事が頭の中でぐるぐるしてる。  奏さんに、抱きたい、と言われた。  そしてキスまでして……蒼也とするのと違って、嫌じゃなかった。  でも、セックスとなると話は別だ。緊張と恐怖がないまぜになり、かたかたと歯が震える。  初めてじゃないのに。  ……いいや、心を支配されずにヤるのは初めてか。  俺はソファーに足をのせて、膝を抱えて俯いた。 「緋彩」  声が降り、びくん、と身体が震える。 「しばらくしたら、送っていくよ」  その言葉に俺は、顔を上げて隣に座った奏さんを見る。  彼は麦茶の入ったグラスを手にして、その中にある氷を見つめていた。 「でも……」 「だって震えてるから。そんな状態でここに居続けないほうがいいよ。部屋ってね特別なんだ」  そして、奏さんはグラスに口をつけた。からり、と氷が鳴る。 「この部屋は僕にとって檻なんだよ。獲物を囚えるための。アルファの中には、オメガを言葉通り囚えて発情期の間中抱き続けたりする人もいるんだ。ほら、オメガが妊娠できるのは三ヶ月に一度の発情期だけだから。確実に孕ませるために、獲物は檻に閉じ込めて絶対に逃さないようにね」  奏さんはグラスをテーブルの上に置き、こちらを向いた。  奏さんの赤みがかった茶色の瞳がすっと、細くなる。 「だからね、緋彩。ここに君を迎え入れて、僕は理性を保っていられる自信、ないんだ」  手が俺へと伸ばされ、すぐ目の前で止まる。 「君から、発情期のオメガみたいに匂いがする訳でもないのに、僕は君が欲しくてしかたないんだ。君の弟のせいかな。君は僕のものなのに、彼は君を抱いたんだもんね。それが本当に許せないんだ。だから僕は早く君を抱きたい。でも……緋彩、ずっと震えてるんだもん」  奏さんの言葉は、切ない響きをもっていた。  確かに俺は震えてる。  どうしたらいいかわからなくて。でも…… 「でも、俺、自分でここにいるって決めたから……」  そう告げて、俺は足をソファーからおろし、伸ばされた奏さんの手に、俺の手を絡めた。  すると、奏さんは驚いた顔をする。 「緋彩……」 「俺が震えてるのは……触られるのが怖いから。もし傷つけてしまったらどうしようって思ってしまうから。今までそれで何人も、傷つけちゃったから。でも……」  言いながら俺は、指に力を込める。 「でも俺は、奏さんに触られるの、嫌じゃないし……触ってほしいって思う、から」  すると、絡めた手が引っ張られそのまま奏さんに抱き寄せられてしまう。  彼の顔が、すぐ目の前にある。  奏さんは俺の頬を撫で、苦笑して言った。 「もし、無理だったら言ってね。どうにか止めるようにするから」  そして、顔が近づき唇が触れた。  今までとは違う、触れるだけのキスじゃなくて舌が口の中に入ってくる、深いキスだ。  蒼也と何度もしてきたのに、全然違う行為みたいだ。  それもそうか。  蒼也とキスするとき、いつも心を支配されていたんだから。  奏さんの舌は俺の舌を絡め取り、ぴちゃりと音を立てる。 「んン……」  奏さんは俺の後頭部を押さえつけて、口の中を蹂躙していく。  やばい、キスって……こんなにくらくらして気持ちいいものだったのか?  角度を変えて奏さんは存分に俺の口の中を舐めたあと、唇を離して言った。 「緋彩、シャワー、一緒に浴びようか」  俺は一瞬迷った後、目を反らして小さく頷いた。  浴室を、シャワーから上がる湯煙が包み込む。  奏さんは俺の素手を手に取ると、愛おしそうにその手を口に含み舌を這わせた。 「あ……」  指を、舐められてる。  一本一本、確かめるように奏さんは俺の指を舐め回し、そして、うっとりとした顔で言った。 「綺麗な手だね」  その言葉を聞いて、俺は首を横に振る。 「そんなこと……ないです。俺の指、細くって全然男っぽくなくって」  そんな、綺麗なわけがない。  日を浴びることも無く、ずっと手袋で締め付けられてきた手は細くてまるで女性の手みたいだ。 「僕は綺麗な手だと思うけど」  そして奏さんは俺の手に自分の手を絡める。  力は使えない。  そうわかってはいても触れるのは怖い、と思い思わず手を引こうとするけど、がっちりと手を握られそれは叶わなかった。  指を絡めたまま、奏さんは俺の腰に手を回し、俺の身体を引き寄せた。 「身体も細いね。肋骨が浮き出てる」  それは気にしたことなかった。  俺が今、気になるのは……奏さんのペニスが硬くなっていることだった。 「か、奏さん……あの……」 「何?」  腰に回された手が俺の尻をすっと撫でる。  まさか、このまま風呂でヤるつもり……じゃないよな? 「いや、あの……当たってる……から……」  言いながら俺は、奏さんから視線を外す。 「あぁ、ごめんね。ここでするつもりはないんだけどね。君の手が、見たかったから」  俺の手なんてそんな大したものじゃないのに。 「この身体を、君の弟は何度も抱いてるのかと思うと怒りを覚えるよ」  そして奏さんは噛みつくように俺の首に口づけを落とした。 「あ……」  肌に歯が立てられ、鈍い痛みと甘い痺れが広がっていく。   「か、奏、さん、ここお風呂……」 「わかってるよ、でも、緋彩の肌に触れると思ったら……我慢できなくなってきて」 「う、あ……」  肌に噛み付かれて吸い上げられ、俺は喘ぎ声を上げた。  初めてじゃないのに……恥ずかしさに俺は声を押さえようと唇を噛んだ。 「んン……」 「緋彩の肌、もっと撫でたい。早く……緋彩を抱きたい」  余裕のない声が耳元で囁く。  奏さんがお風呂に入る前に、俺はひとりで入って腹の中を綺麗にした。  だから抱かれる準備はできている。   「奏、さん……」 「好きだよ緋彩。ねえ、僕の事、受け入れてくれる?」  その言葉に、俺は顔を上げて奏さんをみた。  切なく細められた目が、俺を捉えて離さない。  俺は……奏さんの事…… 「好きです……だから俺……」  震える声で言い、俺は大きく息を吸い言葉を続けた。 「俺、奏さんが、欲しい、です」 「いいの、本当に」  そう問われると決意が揺らいでしまう。  俺は、奏さんの背に手を回し、彼にしがみついて言った。 「俺は……蒼也しか知らないし、自分の意志で抱かれたいなんて思ったこと、ないから……だから俺にとって奏さんは、特別なんです」  俺は今、自分の意志で抱かれたいと思ってる。  自分でも驚きの感情だけど、きっとこんなこと思える相手もう現れることはないだろう。  奏さんなら俺の力は通じないし、傷つけてしまうこともないんだから。  奏さんは、俺を抱きしめる腕に力を込めて言った。 「緋彩……ごめん、僕、優しくできないかも」  そう呟くと、奏さんは俺に口づけた。

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