22 / 39
第22話上書き★
シャワーの音と共に、舌が絡まる音が響く。
すぐに息を上げてしまった俺は、唇が離れるとともに奏さんの胸に顔を埋め、荒く息を繰り返した。
やばい、キスでおかしくなりそうだ。腰が砕け、立ってられなくなってしまう。
「緋彩の体重なら、僕でも抱いて運べそうだから運んで行こうか?」
笑いを含む声で言いながら、奏さんは俺の頭をそっと撫でた。
さすがにそれは恥ずかしすぎる。
でもだからといって今、俺は歩いて寝室に行ける自信もなかった。
俺は顔を上げ、奏さんの名前を呼ぶ。
「奏さん……」
「そんな声で呼ばれたら、僕、ここでしたくなっちゃうよ」
苦笑して、奏さんは俺の尻を撫で、尻穴に触れる。
「あ……」
ただ少し触れられただけなのに、俺は思わず声を上げてしまう。
やばい、穴がひくひくとひくついているのが自分でもわかってしまう。
シャワーを止めて浴室を出た後、身体を拭き激しく口づけを交わした。
わずかの時間も惜しい。
舌を出すと奏さんが俺の舌を吸い、俺の口の中を舐め回していく。
抱き合ってキスをしながら俺たちは寝室へと行き、そのまま俺は、ベッドに押し倒された。
奏さんは唇を滑らせ首に口づけ、胸を撫でる。
「……乳首、大きい」
その呟きの裏に嫉妬心が見え、俺の心は震える。
蒼也によって開発さえた身体には、様々な痕跡が残っている。
首に残る噛み痕、やたら大きな乳首に、肌に残るキスマーク。
奏さんは俺の乳首を指でくにくにと捏ね回し、もう片方の乳首を口に含み舌で転がす。
「ふ、あ……あぁ……」
人に撫でられ舐められるのが気持ちいいなんて変な気分だった。
嫌悪感しかなかった行為なのに、今は欲しくてたまらない。
「キスマークがあるけど、これ、この間のだよね」
「……そう、だと思います」
恥ずかしさに顔が爆発しそうなほど熱い。
「じゃあ全部、僕の痕にしないと」
そう呟き、奏さんは俺の肌に口づけを落としていく。
見たくなくて、俺の肌に残る口づけの痕なんてちゃんと見ようとしたことがない。
だからどれほど俺の身体に痕があるのか知らなかった。
でもこれで全部蒼也の痕跡は奏さんの痕になるんだ。そうしたら俺は……ちゃんと自分の身体を見られるかもしれない。
「う、あ……」
奏さんが唇と手が、徐々に下へと下りていく。
手が太ももを撫で、ペニスに触れる。
「ひ……」
思わず腰を引き逃げようとすると、奏さんの手が止まった。
「怖い?」
その問いに俺は頷く。
慣れているはずなのに、恐怖心が強く出てしまう。
「緋彩」
優しく名を呼び、奏さんは俺のペニスを撫でながら、口づけてくる。
俺は、彼の首に腕を絡め自分からも舌を出した。
激しく舌が俺の口の中を蠢き、手の動きも早くなっていく。
キスも、ペニスを扱かれるのも気持ちいい。
身体の奥底が熱くなり、穴がひくつく。
「奏さん……中、欲しい……」
キスの合間にそう訴えると、奏さんは俺から一度離れベッドボードの収納からローションのボトルを取り出した。
その中身を指に絡めると、俺の足を抱えあげて穴にゆっくりと差し込む。
「分かってはいたけど……中、柔らかいね」
それはそうだろう。
そこに、蒼也のペニスを何度も受け入れてきたんだから。
いっきに指二本が入り、前立腺へと触れる。
「あ……」
「これならすぐに入りそう」
「う、あ……」
前立腺を押しつぶされるたびに、腰から快楽が這い上がり息がどんどん荒くなっていく。
俺のペニスはすでに硬く勃ちあがり、だらだらと先走りを溢れさせている。
ぐちゅぐちゅとローションが音を立てて俺の中を蹂躙していく。
やばい、このままだとあっという間に出してしまいそうだ。
「か、なで……さ……そこ、だめぇ……イくからぁ!」
「それは勿体ないね」
「あ……」
指がするり、と引き抜かれ切ない声が漏れてしまう。
奏さんはベッドボードへと手を伸ばし、小さな白い袋を手にした。
ゴム、ちゃんとしてくれるんだ。
よかった。中に出されると後の処理が大変だし、下手すると腹を壊す。
こういうのがちゃんとあるってことは、今まで何人かと交際してきてるんだろうな。
それはそうか。奏さん、モテるだろうし。そう思うとその相手にちょっと嫉妬してしまう。
奏さんは俺の足を抱え上げると、ゆっくりと腰を埋めた。
「ひ、あ……」
「すんなり入っちゃった。これなら全部入るかも」
「あぁ!」
先端が前立腺を掠め、あっという間に奥までたどり着く。
「あ……はぁっ……はぁっ……」
やばい、奥、当たってる。
奏さんは身体を折り、俺に顔を近づけると、うっとりとした顔で呟く。
「愛してるよ、緋彩」
「あ……奏、さ……」
蒼也の愛情とは全然違う、仄暗さのない言葉に俺は泣きそうになる。
愛されていいんだ、俺。
……好きになっても……いい?
「奏さん、俺……本当に好きになっていいんですか?」
思わずでた不安に、奏さんは俺の頬を撫で口づけて言った。
「僕は君を拒絶しないよ。それに君は、僕を否定しないでしょ?」
この人も、その力のせいで否定されて傷ついてきたんだ。
俺は奏さんの首に腕を絡めて言った。
「だって、俺には奏さんが、必要だから……」
「そう言ってくれて僕は嬉しいよ」
「あ……」
奏さんがゆっくりと抽挿を始め、奥を突かれるたびに俺は喘ぎ腰を揺らした。
セックスってこんなに気持ちいいものだったのか。
奏さんが動くたび、快楽が背筋を這い上がりとめどなく声が漏れていく。
「奏、さん……中、イイ……」
「緋彩の中……気持ちいい……これ、やばいかも」
切羽詰まった声で言い、奏さんは腰の動きを早めていく。
「う、あ……奏さん、奏……!」
名前を叫び俺はあっけなく達し、中にある奏さんのペニスをきゅうっと締め付けた。
「僕も出る……」
短く告げ、奏さんが動きを止める。
あ……奏さんもイったんだ。
彼は荒く息を繰り返したあと、俺を見つめうっとりと呟く。
「愛してるよ、緋彩」
そして唇が重なったあと、俺は彼にお願いをした。
「奏さん……あの、首……噛んでください」
俺はオメガじゃないけれど、うなじには今もきっと、蒼也の痕跡が残ってる。
それをそのままにしているのは嫌だ。
上書きできるなら全て上書きしてしまいたい。
奏さんは俺の中から引き抜くと、俺をうつ伏せにさせ、首に顔を埋めた。
そして、うなじにがぶり、と噛みつく。
「う、あ……」
痛みにじわりと涙がでてくる。でも、これで俺は……蒼也の物である証がなくなるんだ。
やっと、俺は解放されるんだ。
蒼也の執着から。
奏さんは、噛み痕をペロペロと舐めたあと、
「痛くない?」
と、労るように言った。
「だ、大丈夫……です」
「ごめんね、噛むのは初めてだから……加減がわからなくて。すごい、痕ついちゃった」
「いえ……噛まれて、俺、嬉しい、から……」
そう告げると、奏さんは俺の隣に横たわり、身体を抱きしめて言った。
「そんな可愛いこと言われるとまたしたくなるよ」
その言葉通り、俺の腹に奏さんの膨らんだペニスが当たっているのがわかる。
さすがにこのまま二回目、というのはきつい。明日は大学がある。
アルファは何度でもしたがるし、何度でもできるんだっけ。
妊娠のタイミングを逃さないように。そして、オメガは何度でも欲しがるらしい。
でも俺はオメガじゃない。だから何度もは無理だ。
身体が保たない。
俺が戸惑いの顔をしたせいか、奏さんは苦笑して言った。
「ごめんね、大丈夫だよ。今日はもう、これ以上はしないから。でも、嬉しすぎて帰したくないかも」
帰したくない。そう言われると俺も帰りたい気持ちが失せていく。
いや、そもそも帰りたい気持ちなんて最初からないか。
俺は奏さんの背中に腕を回し、顔を見つめて言った。
「俺も……できれば、このままここにいたい、です……」
声を震わせて言うと、奏さんは俺を仰向けにして、獣のような目をして俺を見つめた。
「前言撤回。これ以上しないって言うのは、無理かも」
そして奏さんはゴムを外し、ウエットティッシュで俺の腹とペニスを拭った後、噛みつくように俺に口づけた。
ともだちにシェアしよう!