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第29話約束

 一度のセックスで奏さんが満足するわけはなく、彼は俺に四つん這いになるように言うと、今度は後ろから貫いた。 「う、あぁ……」 「ねえ、緋彩。僕と一緒の家に住みなよ。ここなら……彼は近づけないんだから」 「で、でも……あぁ!」  俺はそばにある毛布を握りしめて、快楽に耐える。  奏さんが動くたびにさっき出された精液とローションがぐちゅぐちゅと音を立てて、太ももを伝いおちていく。  奥を突かれるのが気持ちいい。  俺は自分からも腰を振り、 「奏、さん……気持ち、いい……奥、キてる……」   「緋彩、中気持ちいい。奥、突くと僕のペニス締め付けてくる」  余裕のない声で言い、奏さんは繋がったまま俺の首にかぶり、と噛み付いた。 「う、あ……」  痛いのに気持ちいい。 「奏、さん……一緒にいたい、から……ひ、あぁ!」  奏さんは首から口を離すと、俺の腰を掴み激しく揺らした。 「そんな可愛いこと言われたら、僕、加減できないよ」 「奏、さん……う、あ……あ゛……」  奏さんが動くたびに俺の視界が歪む。 「愛してるよ、緋彩」  そう呟き奏さんは動きを止め、俺の中に射精した。  その後も、俺たちはお互いに求めあい、快楽を貪り続けた。  朝が来た。  四月二十九日金曜日。  スマホ……どうしただろう。たぶん、リビングだ。  奏さんと目が合うと、彼は微笑み、 「おはよう」  と言った。 「あ……おはよう、ございます」 「起きたくなくて、ずっと寝顔見てた」  笑いながら言い、彼は俺をぎゅっと抱きしめる。  抱きしめられて気が付く。  俺も奏さんも裸だ。  昨日の夜、たしか三回くらいセックスして、そのあとも身体中にキスをされて。  風呂入って歯磨きして、寝たんだと思う。  生理現象だし仕方ないけど、奏さんのペニスが腹に当たってる。  俺は恥ずかしさに顔を背け、 「あの、今、何時ですか」  と尋ねた。 「んー……僕が起きたときは七時前だったけど……いいじゃない、今日は休みなんだし。もう少しこうしていようよ」  そう言って、奏さんは俺の額に口づけた。 「ちょ……奏さ……」  キスは額から瞼、頬に下り、首へとたどり着く。 「朝起きて、君がいるのが嬉しくて」 「だ、だからって朝から……あ……」  首にキスを落としながら奏さんは俺の乳首を指先で弾いた。 「か、奏さ……あン」  奏さんは俺を仰向けにさせて覆いかぶさると、俺の身体に口づけを落とし満足そうに呟いた。 「僕がつけた痕がたくさんある」 「んン……」  恥ずかしさに俺は、口を手で塞いだ。 「緋彩……いくら抱いても足りないよ」  奏さんの声が余裕のないものになってくる。さすがに風呂入ってないし、昨日中に出されたことを考えると朝からはきつい。  ……これで一緒に暮らしたらどうなるんだよ……?  毎朝これじゃあ、俺の身がもたない。 「奏さん……俺、お腹すいてるし……あ、ン……」 「あぁ、そうだね。ご飯、食べようか」  そして奏さんは愛撫の手を止め、俺から離れて行った。  朝食の準備をする、と言われ、俺はひとり手持無沙汰でリビングのソファーに座ってテレビを点けていた。  そして俺は、半日ぶりにスマホを見る。  すると、メッセージが来ていた。  相手は、蒼也と……父親だった。  なんでこのタイミングで父親からメッセージなんてくるんだ?  俺は、父親と少しは話ができるけど……それは母親と比べてであり一般的に見たら仲良くはない。  幼い頃は大事に扱われていたと思うけれど、俺に力が目覚めてからは余り話さなくなり、俺がベータであるとわかってからしばらくは態度が冷たかったと思う。  それでも、家を出てからはそこそこ改善したとは思う。  俺は、蒼也より先に父親からのメッセージを確認した。 『友達の家に泊まると聞いた。連休中、少し話ができないか? 私はいつでもいいから』  などと書いてある。  たぶん、このはさんから聞いたんだろう。彼女を雇っているのは父親だから当たり前だし、報告されても困る内容じゃないから口止めもしなかった。  話しがある、なんて言ってくるのは珍しい。  いったい何があったんだろうか。  これって、直接会って話がしたいってことだよな?   『おはよう、父さん。バイトは夜からだし、五日は予定があるけど……日中ならいつでもいいよ』  そう入力して送り返す。  すぐに既読が付き、 『一日の日曜日は』  と返って来る。  その日はバイトがないため、俺は、 『いいよ』  と、短く返した。 『どこに迎えに行けばいい』 『迎えって、車で来るの?』 『当たり前だろう』  ってことは、父親と車でふたりきり……?  それはそれで緊張する。  結局、駅前のロータリーで一時に待ち合わせることになった。  どんな用件なのか聞いたけど、教えてはくれなかった。  父親とのやり取りが終わり、次は蒼也だ。  俺は大きく息を吸い、ゆっくりと吐いてから震える手でスマホの画面を押した。 『家にはいないみたいだけどどこにいるの』  メッセージの着信は、昨夜の十時過ぎだった。  たぶんその頃、俺は奏さんとベッドの上だったと思う。 『あぁ、もしかしてあいつの家か。返事がないってことはヤってる最中なのかな』 『緋彩が俺と会うなら、いくらでも予定を開けるよ』 『緋彩は、俺を捨てるの?』  そこでメッセージは終わっている。  捨てるも何もないだろう。  その力で俺の意思を無視して縛り付けてきたくせに。  俺は質問には答えず、 『じゃあ、七日に』  とだけ返した。   「緋彩」  後ろから声がかかり、心臓がとび出るんじゃないか、ってくらい俺は驚く。  パンと、ソーセージの焼ける匂いがして、俺の腹が鳴る。 「手袋……してないんだね」  そう言われ、俺はハッとする。  言われてみれば、昨日、風呂に入る時に外してそれっきりだ。  俺が、手袋の存在を忘れるなんて。  気が付くと、一気に不安になり俺は手袋を取りに行こうと慌てて立ち上がる。すると俺の目の前に奏さんが手袋を差し出してきた。 「はい」 「あ、あ、ありがとうございます」  俺はそれを受け取り、急いで手袋をはめる。 「しないで済むならその方がいいけど」  そして奏さんは俺の手を取り、手の甲に唇を寄せた。

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