30 / 39
第30話たまる着信
朝食の後、ソファーに腰かけて父親と弟に会う話をしたら、奏さんはあからさまに嫌そうな顔をした。
「彼と、ふたりきりで本当に会うの?」
言いながら、奏さんは俺の肩に手を回し俺の身体を引き寄せる。
ふたりきりで会うしかないだろう。
だって俺と、蒼也の問題なんだから。
「話さないと、俺は蒼也から解放されない、から」
「そんなに震えてるのに?」
確かに俺の身体は震えている。
それはそうだろう。
蒼也は俺と顔を合わせるたびに有無を言わさず抱いてきたのだから。
俺が家を出てから、あいつとセックス抜きで顔を合わせたことなんてあったっけ?
ないな。
どこかに出掛けたこともないし、ずっとセックスしてばかりだった。
……試験前に勉強をした事はあったかも知れない。
俺は首を横に振り、俯き言った。
「でも会わないと、前に進めないから」
「じゃあ、僕もついて行くよ」
その言葉に俺は驚き、目を見開いて奏さんを見つめる。
今ついてくるってくるって言わなかったか?
何で?
「え? あ……ついてくるって……」
「だって、彼と君をふたりきりにしたくないもの。町の外で会いたいって言ったら断られるだろうから、それなら僕が一緒にいたほうがいいでしょ?」
俺たちがもつ能力は、この町の中にいる間しか使えない。だから町の外にでれば俺も蒼也も力を使えない……はずだ。
蒼也がもつ人の心に干渉する力も、町の外に出れば関係なくなるはずだけど、もし町の外で会いたいっていったらこちらの意図は丸わかりだし、不自然すぎる。
町の外で会えたらそれに越したことはないけど……きっとそんなことを言ったら蒼也は俺と会おうとはしないだろう。
できることは、あいつに触らせないようにすることくらいか。
……建物の中で会うと俺の力は使いにくいから、やっぱり外かな。公園とか、広い所がいいな。
「どこで会うつもりなの」
「そ、それは決めていなくて。今考えてます」
公園てどこにあったっけ?
たくさんありそうなのに、全然思いつかない。
「じゃあ、大学の近くにある公園は? あそこなら散歩の人も多いから僕が公園内にいてもそうそうばれないだろうし」
そういえば公園あったっけ? しばらく近づいていないから全然思いつかなかった。
大学近くの公園は広くて、芝生が広がり遊歩道があり、大きな滑り台やアスレチックがある。休憩スペースも十分あり、たしかカフェもあった気がする。
幼い頃、俺も父親に連れて行ってもらったっけ。
ぴょんぴょん飛び跳ねられる白いドームの形をしたトランポリンがあって遊んだな。思い出すと懐かしさと痛みが心の中に広がっていく。
幼稚園の時は、少なくとも普通の家族、だったんだよな。
……どこで間違えたんだろ。俺の力が目覚めたとき? 俺が、アルファじゃなかいとわかったとき?
せめて蒼也とは普通でいたかったのに。
「緋彩?」
「え? あ、あ……えーと、そう、ですね。そうします」
俺はあわてて返事を返し、震える手でスマホのロックを解除する。
そこで俺は、蒼也からの着信がたまっていることに気が付き恐怖を覚えた。
俺が返信をしたのが一時間ほど前だ。
そこから五分おきに電話がかかってきている。最後の着信は三分前。
電話の着信はミュートにしているため全然気が付かなかった。
あいつ、どうしたんだ?
今までこんなにしつこく電話をかけてくることあったっけ……?
いいや、ないはずだ。
父親が話をしたい、と言ってきたことと関係あるんだろうか?
蒼也が何を考えているのか全然わからない。あいつ、大丈夫なのか……?
俺は思わずスマホを閉じ、綿パンのポケットにそれを突っ込んだ。
今は連絡しない方がいい気がする。
もう少し時間が経ってからメッセージを送ろう。
「どうかしたの」
俺が慌ててスマホをしまったからだろうか、不思議そうな声で奏さんが言う。
「いいえ、なんでもないです」
きっと、この異常な着信の数の事を言ったら奏さん、心配するよな。というか、会うのを止められかねない。
それじゃあ何も変わらないからこのことは黙っていよう。
「……それならいいけど。今日はバイトないんだよね」
「はい、明日はバイトありますけど」
すると、奏さんは俺の頬に触れ顔を近づけると、にこっと笑い、
「じゃあ今日は一日こうしていられるんだね」
と言い、唇を重ねてきた。
ともだちにシェアしよう!