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第35話 いっしょにいたいから

 五月七日の十一時に蒼也と会う。  考えるだけで身体が震えてしまう。  今日は五月三日火曜日で、午前中、奏さんは大学に用がある、と言って出てしまい俺ひとりきりになっていた。  バイトは午後二時からラストまでだ。  時刻は十時過ぎ。ソファーに腰掛けて課題をやっているものの、頭の中ではずっと蒼也のことばかり考えていた。  昨日、登校したけど蒼也とは会わなかった。  昼休みは奏さんのいる医学部棟に行き、他の休み時間はなるべく水瀬たちと行動するようにしていた。  そのおかげか、水瀬や他の学生と話ができるようになっていた。  この力で傷つけてしまうかもしれない。  弟との関係を知られたら……  そんな恐怖がずっとあり友達なんて作ってこなかったけれど、水瀬が色々と話しかけてくるのと、自分の力に対する自信のおかげでだいぶ人との距離を縮められるようになっていた。 「お前、表情明るくなったよな」    水瀬がそう言いながら俺の肩に触れきた。以前ならその手を振り払い逃げていたけれど……今は大丈夫になっていた。  俺の中にはまだ、蒼也に対する恐怖がある。  だから今でも怖くて仕方ないんだけど……でも奏さんがいるから俺は大丈夫だって思えるようになってきたのかな。  奏さんとの関わりが俺に自信を持たせてくれる。  あの時奏さんが声をかけてくれなかったら俺はずっと、蒼也に縛られていたままだったんだろうな。  ひとりの時間を寂しい、なんて思ったことなかった。  そんな感情は久しぶりで、自分に戸惑いを覚える。   「奏さんと会えるの、夜だよな……」  呟き、俺はタブレットをテーブルに置いた。  奏さん……  ここにきて、毎日一度は抱かれている。蒼也とは嫌で仕方なかった行為だけど、奏さんとの行為は嫌じゃない。それどころか嬉しくてたまらない。   「奏さん……」  呟き俺はソファーに寝転がり、穿いているジーパンの膨らみに触れる。  奏さんとの行為を思い出すだけで、ペニスに熱がたまっていってしまう。  まだ午前中だって言うのに、何やってるんだ俺……  そう思いながら俺はジーパンのファスナーをおろし、下着ごとジーパンを脱いだ。  顔を出したペニスはすでに硬く勃ちあがり、先走りを溢れさせている。  オナニーなんて殆どしたことないのに、俺、何やってるんだろ。  そう思いながら俺はペニスを手にして、上下に扱き始めた。   「う……んン……あぁ……」  昨日したのに、俺のペニスは徐々に大きさを増していく。  切なく疼く後孔に何か挿れるわけにもいかず、俺は奏さんとの行為を思い出しながら手の動きを早めていった。 「あ……ン……奏さん……奏……あ……」  耳の奥で、俺の名を呼ぶ奏さんの声が響く。  やばい、このままだと出てしまう。  ここ、ソファーの上なのに。あれ、ティッシュあるっけ……? 「奏さん、イく……だめ……」  びくびくとペニスが震え、俺は自分の手の中に精液を吐きだした。  奏さんの部屋の奏さんのソファーでオナニーするとか俺、どうかしてるだろ?  早く帰ってこないかな、奏さん。  ひとりの部屋は寂しくて、いっそう恋しくなってしまう。     空は、憎らしいほど晴れていた。  五月七日土曜日。  午前十一時に公園で待ち合わせとなっている。  俺は手袋をしていない手を見た。  奏さんと過ごすようになって俺は外に出る以外、手袋をはめずに過ごせるようになっていた。  自分でも驚きだった。  怖くて素手では触れなかったスマホや家電製品に触れられるようになった。  こんな短期間で変われるものなのかと、俺自身驚いている。 「緋彩」  ソファーに腰かける俺を、後ろから奏さんが抱きしめてくる。 「奏さん」  俺は彼の名を呼び、その腕に触れる。 「一緒にいられるのも今日で最後になるのかなあ」 「で、でもほら……この間部屋を見に行ったじゃないですか」    父親の許可が出たので、この連休中に俺と奏さんは一緒に住めるような家を捜していた。  俺としてはこのマンションでもいいと思うんだけど、それは奏さんが嫌がった。  オートロックで、階層が上のほうでできれば管理人などがいるマンションがいいとか言い出していた。  それって家賃いくらになるのか俺には恐怖でしかなかったけれど、奏さんは頑として譲らなかった。 「そうだね。夏休みには引っ越そうね。僕は君と一緒に暮らせるならなんでもするから」  何でもする、っていう言葉だ比喩ではなく本気なんだろうから嬉しくもあり怖くもある。  アルファの執着心の強さを見せつけられているような気がして。 「今日ちゃんと俺、蒼也と話をするので……そうしたら俺は……」 「弟君に振り回されない生活、送れる様にしようね」  そう囁き、奏さんは俺のこめかみに口づけた。  

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