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俺を見つめるお前が悪い! (4)

「いやだっ……もう……っ」 「イきたい?」  俺の身体を揺さぶりながら、佐藤くんがニヤリと笑った。  根元まで押し込んだそれでなかをグリグリしながら、俺の震える内股をゆっくりとなぞる。  もしもこれがいつもの夜の営みだったら、今ごろ俺は3回くらいイかされていたんだと思う。  でも、今夜敷かれたばかりの水色の冷感シーズには、シミひとつ見当たらない。  なぜなら、俺の大事なアレが〝大人のおもちゃ〟にすっぽりと覆われているからだ。  そしてそれは、やっぱり三日前に届いたあの箱の中から出てきた。   「やだっ……もう嫌だ! はずして……ッ」 「シリコン製だから痛くないでしょ?」 「そういう問題じゃない……!」 「うーん……もっと派手な色のやつにすればよかったなあ」 「このっ……変たああぁ――んッ」  目蓋の裏が、チカチカと点滅した。  緩やかだった抽挿が急に激しくなり、なかをかき混ぜる膨らんだ先端にイイところばかり擦られて、もうおかしくなりそうだ。  俺の欲望はいつ弾けてもおかしくないほどてっぺんまで上りつめているのに、出口を塞がれているせいで焦れったさばかりが蓄積されていく。  辛い。  苦しい。  解放されたい。  早く。  気持ちよくなりたい。  頭の中から複雑な思考が消えさり、原始的な欲求にどんどん上書きされていく。  出したい。  出したい。  早く。  早く。 「もう出したい……ッ」 「だーめ」  なんでだよ……? 「なんで、意地悪すんだよぉ……!」  生理的な涙が、ボロボロ溢れる。  佐藤くんはこめかみを伝った雫を親指で拭い取り、俺をぎゅうっと抱きしめた。 「なかイキしてほしいから」  耳の中に注ぎ込まれた吐息が湿っていて、思わず身震いする。  離れていく気配が名残惜しくてついキスを強請りそうになって、でも俺はすんでの所で思いとどまった。  だって、今なんか聞こえた。  聞き捨てならない四文字が。 「は……?」 「理人さん、お尻でイくのすっごく気持ちいいって知ってるくせに、いつも怖がってイってくれないでしょ? でも、貞操帯があるからもう逃げられない」 「うあ、あ、ちょ、んぅ……!」  止まっていた律動を再開し、佐藤くんは本気で俺を落としにかかってきた。  舐められまくったせいで敏感になっている胸に刺激を与え、かと思ったら急に首筋に顔を埋めて吸い付いてくる。  とっくにごちゃ混ぜになって限界を超えていた感情をさらにかき混ぜられ、俺は、ただ喘いだ。 「理人さん……」 「んっ、ん、んあぁ!」 「我慢、しないで……?」  佐藤くんの声は、幼い子どもを導こうとするように優しい。  そのまま身を任せそうになって、でも、俺はやっぱり我慢した。  だって、お尻だけでイくのって、なんかいつもと全然違って、やばい波が来るって感じで、でもなにが来るのかわからなくて、何も考えられなくなって、わけがわからなくなる。  それが怖くて、怖くて、だから―― 「やだっ……」 「大丈夫」 「こわい……っ」 「俺にしがみついていいから」  俺は、力まかせに佐藤くんの上半身を引き寄せた。  汗ばんだ肌と肌がくっついて、気持ち悪いのに、気持ちいい。  そんな甘い思考が、最奥を抉られてすぐに吹っ飛んでいく。  思わず力を込めたら、佐藤くんが小さく呻いた。  ああ、そうか。  俺、今、あの広い背中に爪、立ててるんだ。   「理人さん……目、瞑って」 「あっ、あ、あ、あッ」 「俺だけを感じて……」  世界からものが消えていく。  今俺のそばにあるのは、佐藤くんの体温と、降り注ぐ吐息と、肌がぶつかりあう湿った音だけ。  汗と涙でドロドロで、決して綺麗な行為じゃないのに、なんでだろう。  追い詰められていた心にふっと風が吹き、あたたかい気持ちでいっぱいに満たされていく。  嬉しいのに、なんだか無性に泣きたくなって、滲んだ涙が、揺れる視界からさらに輪郭を奪っていく。  腹の奥からせり上がってくるものが怖くてたまらないのに、溢れる気持ちは止まらない。 「佐藤くん……っ」 「理人さん……」 「英瑠(える)……える……!」 「理人……」  名前を呼べば、すぐそばで佐藤くんの笑顔が弾ける――そのことがただ嬉しくて、原始的欲求に支配されていた心が、少しずつ変わっていく。  嬉しい。  気持ちいい。  好き。  大好き。    愛してる。   「あっ、あっ、だめっ……もう……ッ」 「うん……イって?」 「あ、う、ん、ん、んんん――!」  震える身体がたくましい腕に包み込まれるのを感じながら、俺は佐藤くんの背中に思いを刻み込んだ。

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