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夏祭り編 第3話
「優斗さん」
一度ストッパー外れたら、っつーかスイッチ入ったら止められるわけない。
優斗さんの浴衣の袖を引っ張ると優斗さんはアイスを咥えたまま首を傾ける。
一回りも年上だけど、クソ可愛い!!
「なにか?」
「あのさ、場所移動しない?」
「場所?」
そうそう! 人気のないところに!
「どうして?」
怪訝そうに優斗さんは訊き返してきて、俺は必殺上目遣いのおねだり攻撃で―――
『チューして、ちょっとだけ触りたい』
なんつーことを言うために口を開きかけた。
「あっちー」
「そりゃ夏だし」
だけどその寸前で俺たちのすぐそばに男が二人座ってきた。
「……」
「捺くん?」
もっと向こう行けよ!!
座るスペースなんていくらでも……ないけど、あと1分くらいあとだったらよかったのに!
さすがにデカイ声で言う予定だったさっきの言葉を言うのは躊躇う。
「……あのさ、移動しない?」
「なにか買う?」
「いや、そうじゃなくてもっと……その静かなところにー……とか」
歯切れ悪くボソボソ。
イヤ別に変なこと言ってない、よな?
「でも花火見る場所取りにいかなきゃいけないんじゃない?」
「……」
俺の横、ほんの一メートルほど隣に座ってる20代半ばと少し下に見える男二人はビール飲みながら俺と同じ焼きそば食ってる。
ふたりが喋ってる内容はがっつり聞こえてくる。
つーことは俺が喋るのも聞こえてるかもしれないってことだ。
イヤ別に変なこと言うつもりはない、けど。
「あの優斗さん」
優斗さんって真面目だからたまに直球で言わなきゃわかってくれないこともあるんだよなー。
でも言えない、から……目は口ほどに物を言う、らしいから目で訴えて見た。
じーっと見つめて、もう一回小声で静かなところに行きたいって言ってみる。
「でもこの辺静かなところあるかな? どこも多そうだけど」
「……」
なんでわかってくれないんだよー!
仕方なくこそこそと優斗さんの足に触れて指先で撫でてみる。
優斗さんと目があって、じーってまた見つめる。
優斗さんはいつも通り優しく笑って俺の口元にアイスを差し出した。
「捺くんも食べる?」
「え、俺は」
「溶けかけてる。ほら」
口にひんやりとアイスが触れる。
確かにアイスは溶けだしていて舌出して舐めた。
「美味しい?」
「うん」
普通のアイスキャンディーだな。
アイスなんてこの際どうでもいい。とりあえず俺は一回抜きたいー!
「ね、優斗さん」
「捺くん、ほらちゃんと食べないと」
「え、いや」
いらない、って言う前にまたアイスが押し付けられる。
仕方なく食べはじめる俺に、
「―――ちゃんと、舐めてね?」
って優斗さんがにっこり笑顔を向けてきた。
「……」
え―――、え?
な、なんだろう。意味深にも聞こえる言葉に俺は躊躇いながら舌を出し、ぺろぺろとアイスを舐めた。
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