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第2話「隠すべき好き」*仁

 優しくて、頭もよくて、運動もできて。カッコいいけど、にこ、と笑ってくれる、可愛い笑顔が何よりも好きだった。  周りの皆があき兄の事が好きで、いつもあき兄の周りには友達がたくさん居た。オレの友達も、あき兄を好きだったし、本当に自慢の兄貴だったと思う。  小学生の途中までは――――……「兄貴が大好き」で済んでいた。  高学年になるにつれ、同級生が、誰が好きかという話で盛り上がっている時に、さすがに兄貴が好きというのはおかしいと、何となく分かってはいたので、 一番可愛いと思う女子の名前を言って周りに合わせた。  そうやって、周りに合わせているうちに――――……いつからか、あれ?と不思議に思った。  皆が女子の名前を言って盛り上がる時に、自分は何で、あき兄、と思うんだろう。何で、無理やり、女子の名前を引っぱり出して合わせる、なんて事をしているんだろう、と。  誰に言われる訳では無かったけれど、成長とともに、自然と分かった。  この好きは――――……隠さないといけない、「好き」なんだ、と。  悩んだまま中学に入った。オレが一年、あき兄は三年。  近すぎるのは避けて、部活は別の部を選んだ。  あき兄は陸上だったので、サッカーにした。  理由は簡単。同じグランドに居られるから。  毎日家でも会うのに――――……学校で会うと、嬉しくて。  面倒見の良い、優等生なあき兄は、生徒会の副会長。何かの集まりがある度に、壇上で生徒会長の手伝いをしていた。  いつも一緒にいる会長に、ものすごく敵対心を持ったりもした。  陸上部に付き合ってる彼女も居て、二人の姿を見かける度にモヤモヤした。  ――――……そこでも、いつも、疑問だった。  なんで、オレ――――……中学に入っても。  本当に、いつまでたっても、  毎日、あき兄ばかりなんだろう、と。  隠した方がいいと思っているこの想いは、  一体、いつ、消えてくれるんだろう、と。  オレは、モテるみたいで。結構女子に話しかけられて、日々周りに女子が居た。それを、あき兄にも見られていて。  仁はほんとモテるな、なんて言うあき兄の言葉に、焦って反論したりした。  学校ですれ違う時、あき兄は、オレを見て、ふ、と笑って見せる。  友達と居る事が多いので、何も話しかけてこない。  友達の一人が、そんな、あき兄を見て、オレに言った。 「いいなあ、副会長が兄貴で。うちの兄貴なんか、ほんと、うざいぜー……横暴だし、乱暴だし」  それを聞いて、確かに、  あき兄が兄貴で良かったと、一瞬思ったのだけれど――――……。  兄貴じゃ、どんなに好きでも、どうにもならないから――――……。  やっぱり、あき兄が、兄貴じゃない方が良かった。  と、その後、強く思ってしまった。  オレの好きは――――……家族を好き、な気持ちじゃない。  でもまだ完全に認めたくはなかった。  だから、告白された女の子と何人か付き合った。それなりに可愛いとは思うし、デートしたりして、楽しいとも思えた。  あき兄の事は、特別に好きではあったけれど――――……。  家族としての、弟としての位置を、大事にもしたかった。  そんな事を色々思いながら、あき兄と一緒の、中学の一年間を過ごした。

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