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第4話「すれ違い」*仁

 一緒の高校に入れたのは嬉しかったけど――――……。  中学の時にあき兄と組んでいた生徒会長がまた生徒会長になった。誘われて立候補して一緒に当選したあき兄は、また副会長として常に一緒に居た。  それから、あき兄には、陸上部も生徒会も一緒の彼女も居た。2年から付き合いだしたらしい。家にも連れて来た事があったから見た事はあったけど、その時は友達だと言ってたし、他にも何人か女子の友達も連れてきた事があったから、分からなかった。  付き合ってるのを知ったのは、オレが高校に入学してから。  才色兼備の最強カップルなんて言われていて、有名だった。  確かに、可愛くも美人にも見える子で、あき兄と並んでると、すごく似合っては、いた。  大丈夫、と自分に言い聞かせた。  ――――……中学の時も、彼女はいた。  そりゃ、カッコよくて、優しくて、頭も良くて、陸上部のエースで、生徒会。出来すぎなあき兄が、フリーでいる訳が、ない。  だから、彼女が居ても、仕方ない。  ――――……そう、言い聞かせないと。  学校で、見かけるたびに、キレそうで、ヤバかった。  自分が今、キレやすい、思春期で。思考が激しくなる時期に居る。  そんな授業を受けると、この、キレそうな感情も、いつか落ち着くのだろうかと、思う事もあったけれど。  ――――……あき兄を想う気持ちは、  もう、本当に幼い頃からだったから。  この思春期をこえて、この激しい想いが落ち着いたとしても、その時。  これ以上好きな人が、他にできるんだろうかと思うと、不安で耐えられなくなりそうだった。  このまま、ずっとずっとずっと、あき兄を好きなまま、いくんじゃないだろうか。  良いわけない、とは、思っていた。  ずっと。  間違っているとも、思っていた。  だけど、それでどうにかできる想いじゃなくて。  オレとあき兄は、部活も違うから、行き帰りの時間も違う。  生徒会の仕事もあって、あき兄の登下校の時間はものすごく不規則。  せっかく同じ高校に入っても、一緒に登下校する事は殆ど無かった。  家の部屋は兄弟3人一緒で、二段ベッドの上に弟の和己、下にあき兄、離れた少し大きいシングルベットにオレ。この配置は、オレがあき兄の身長を追い越した時点で、否応なく母に決められた。  ベッド以外は、なんとなく3つに部屋を分けていて、机もそれぞれ壁や窓に向けて、適当に置いてある。真ん中のスペースが空いていて、そこは好きに過ごしていい場所。普段は、和己が独り占めで、そこで遊んだりゴロゴロしたり、満喫してるんだろうけど。  あき兄とオレが部屋に居るのは、早くても夕方以降。  朝はあき兄が大分早くて会わないし、夜も、遅く帰ってきて食事と入浴を済ませたら、受験生のあき兄は、ほぼ机で勉強している。  その後ろ姿を見ながら――――…… 眠りにつくだけの日々。  兄弟3人、男同士なのをいいことに、子供部屋を、2階のほぼ全部を突き抜けた一部屋にした、父母を呪いたくなる。  せめて、別の部屋だったら良かったのに。  会話も、あまりない。オレが、必要な事しか、話さないから。  まだ小学生の和己は無邪気にあき兄にしがみついたり、話しかけたり、ちょっかいを出してるけれど。優しいあき兄は、勉強を邪魔されても、嫌な顔一つしないで、和己を可愛がってる。  たぶん、オレの事も――――……。  オレが話さないから、反抗期だとでも思って、放っておいてくれてるんだろうとは思う。  あき兄から、たまにかかる言葉は、いつも優しいから。  でも、オレが欲しいのは……。  和己に向けるような、そんな優しさじゃなくて。  ――――……その優しさは、ただ、苦しくなるだけだった。  学校が早く終わって部活も禁止の日は、オレは、あき兄と2人きりになりたくなくて、和己が遊びから帰ってくる時間までは、剣道の道場にも通い続けた。この時も、剣道をやってて、本当に良かったと、思った。  剣道で気持ちを鎮める術をもし知らなかったら、どうなっていただろうと思うと。 自分で恐ろしい位。  日々、自分の内の激しい気持ちを、抑えつける毎日だった。  やっとあき兄と同じ高校に入れたのに、そんな毎日を送り続けて。  日々、すれ違いばかりで。  それなのに――――……。  恋しいと思う気持ちは、止まらなくて。  彼女を作っても、誰と遊んでも、何をしても、ごまかせなくて。  ――――……こんなに苦しいのに、あき兄は、何も知らない。  いつからか、オレは、そんな風に思い始めた。

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