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第7話「意味が分からない」*仁

 もう、何を話せばいいのかも分からないまま。 「……彰、何でキス、させたままにするんだ……?」  さっきから不思議だった事を、聞いてみた。  すると彰は、オレの胸に手をついて引き離すと、涙目で少し睨むように見上げてくる。 「……力強すぎるし、無理やり離しても意味なさそうだし。――――……そもそも、オレ、ファーストキスでもないし……そんな大した事じゃない」 「――――……」 「……昔も、お前とちゅーしてたし」 「は?……何の話?」  眉を寄せたオレに、彰は、ふー、と息を吐いた。 「小っちゃい頃から。 にいに、大好きって、ちゅーちゅーしてきた」 「――――……っ」 「なんなの、お前。――――……ずっと、変わんないの?」 「ちが――――……」  がっくりと、肩を落としてしまいたくなる。  なんとかそれは踏みとどまったけれど。  すげえ小さい頃のちゅーと、オレが今してたキスを、同じくくりに入れられるって……。  どんだけ、オレ――――……「弟」として、見られてるんだ……。 「だから、お前とすんの、初めてじゃないし。……舌、入れんのはほんとにどーかと思うけど」 「――――……」 「……何でするんだとか、何を話せばいいのかとか、考える方に必死だったから… 弟、意味も分かんないまま殴る訳にもいかないだろ……。お前じゃなかったら、最初のキスで、蹴り入れたって――――……」  はー、と疲れたように言う彰。  違う。  なんか、違う。  ――――……伝えたかったことが、全然、伝わってない。 「――――……あのさ、彰」 「……ん?」 「オレ、諦めない オレ、彰のことがずっと、好きだったから」 「……ずっとって……いつから?」 「……幼稚園の時……」  言ったら、彰は、え。と固まった。 「……すげえ、(こじ)れてない? それってさ、明らかに、家族――――……」 「っ違う」 「――――……仁」  オレが急に声を荒げたから、彰は、ふ、と口を噤んだ。 「違う、家族じゃない。家族の誰にも、こんなことしたいと思わない。幼稚園から一番好きだったけど――――……ほんとにこういう意味で好きだと思ったのは、中学の時から」 「――――……仁さ、中学も、高校も……彼女、居たよな?」 「――――……っ……居たけど……」  ……紛らわしてただけ。彰のかわり。  あとは、自分が女ともできるって安心したかったのと、あわよくば、そっちを好きになれればとも思ったのと――――……なんて、どれもこれも、とても彰には、言えなかった。 「――――……オレ、仁のこと、すごく大事だけど……」 「――――……」 「もし、仁の言ってる好きが、本当に、キスしたいとか……そういう好きだとしても…… オレは、それには、応えてあげられない」 「……それでも、オレ、諦められない」  言い切ったオレに、彰は眉を寄せた。  それから、額を手で覆って、しばらく俯いていた。 「――――……仁、ごめん」 「――――……」 「……もうこれ以上、今、考えられない」 「――――…」 「――――……とりあえず……話は分かった。……けど、今テスト期間。受験生の邪魔すんな。あと、お前もちゃんと勉強して」 「――――……っ」 「テスト終わったら――――……また話すから」  ――――……これ以上、邪魔できなくなるポイントを、確実についてくる。  さっきまで――――……あんなに、可愛かったのに。  もう、ずっと、兄貴の、顔。  ――――……っ……むか、つく。  心の底から、焦れる。 「……とにかくさ」 「――――……」 「もっとちゃんと、考えて。オレとのそんな関係、何の未来もないだろ? お前、モテるし、オレを選ぶ必要、ないだろ?」 「――――……考えるけど……彰も、オレの気持ち、覚えといて」  言うと、彰は、しょうがないな、といった感じで、うん、と頷いた。  違う。  ――――…これじゃ、違う。  そうじゃない。モテるとか関係ない。  オレは――――……本当に、誰よりも……彰が、好きなのに。 「……ちょっと、オレ、シャワー浴びてくる」 「え。……あ、うん」  戸惑ったままの彰を置いて、バスルームでシャワーを浴びる。  シャワーで覚まそうと思った興奮はまったく冷めてはくれず。ただ体だけは冷えたまま、部屋に戻る。 「彰」  ドアを開けるとともにそう呼ぶと。  振り返った彰が、ため息をついた。 「……ずっと彰って呼ぶ事にしたの?」 「これからずっと彰って呼ぶ。――――……あと、忘れないで」 「……?」  彰の近くに歩み寄ると、一瞬体が強張った気がしたけれど敢えて気にせず、オレは、彰を肩に手をかけて、ぐ、と引いた。  そして、唇を、重ねた。 「オレは、こういう意味で、彰が好きだから」 「――――……」  彰が、まじまじと、オレを見つめてきて。  困ったように、眉が顰められる。 「忘れないで」 「――――……じゃあ仁も、ほんとにそうなのか、もう一度ちゃんと考えて。違うって思ったら、ちゃんと言って」 「――――……言わねえけど、一応考える」 「――――……」  彰は、はー、と息を吐いて。 「仁。体、冷たすぎる。ちゃんと拭いて、あったかい服着て」  そんな心配までされて、オレが仕方なく頷くと、彰は「……勉強していい?」と聞いてきた。再び仕方なく頷く。 「仁も勉強して」  ――――……はーーーーー。  …………あんなキスまでしたのに。  ……彰は、ものすごく、普通で。  想いを伝えて――――……。  どう転んだとしても、状況が動けばいいと思ったのに。  思った以上に、優しく、冷静に、受け止められてしまって。  もう全然――――…… 意味が、分からなくなった。

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