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第13話「きつい」*彰
それ以上何も、言う事が見つからなくて。
オレは、仁から少し離れようとしたのだけれど。
腕を掴まれて、止められた。
「……彰、ごめん。 嬉しいとかオレ言っちゃったけど……別れて、落ち込んでる?」
「――――……」
「……元気ない」
じ、と見つめられて。
何ともいえない感覚。
「……大丈夫、だよ」
「……ほんとに?」
「――――……うん」
ぐい、と引き寄せられて、抱き締められた。
「仁……」
ゆっくり、離させて。
――――……は、と息を吐いた。
「――――………オレにこんな事して…楽しい?」
「……楽しくない、よ。――――…… なんか、焦れるだけ」
「――――……」
時たま。弟じゃなくて。
完全に、男の顔に見える時がある。
オレの、よく知ってる、仁じゃなくて。
――――……焦る。
焦っている間に、頬に触れられて、唇が重なってくる。
最初のキスの時は――――……なんか、あんまりに一生懸命で。
そのキスの意味を考えて――――…どうしようと思っている間に、どんどんキスが深くなっていって。
とにかく、拒めなかったけど。
それでも、少し余裕があった。
どうせすぐ飽きる。
どうせすぐ、こんなのおかしいって、気づく。
そう、思っていたのに――――……。
最初に拒まなかったキスを、どう拒めばいいのか――――……。
そもそも、嫌だと、思っているのか。自分の事が分からない。
……寛人に言ったら、怒られるだろうな……。
受け入れられないなら、拒めって。
寛人に言われなくたって――――……ダメだって、分かってるのに。
――――……仁が、自分から、やっぱり違うって言ってくれるのが一番いいんだけど。この調子じゃ無理なのかな……。
その時。
「ただいまー!」
玄関から和己の声が、聞こえる。びく!と震えて。名残惜しそうに、仁が手を離さないので、「バカ、離せって」と言って藻掻く。
すると。
「――――……っ」
後頭部を押さえつけられて。
無理無理、キス。
「……んっ」
ばか仁……!!
とんとんと、和己が階段を上ってくる音がする。ふりほどこうと、顔をそむけようとしても、仁が、しつこく舌を絡ませてくる。
がちゃ。ドアが開いた瞬間。
オレが仁の頭を、思い切りどついた所だった。
「……っいっ、てぇ……」
「るさい――――……おかえり、和己。早かったな?」
「約束してた友達、来ないんだもん。あき兄が帰ってきてたし、宿題教えてもらおうと思って帰ってきちゃった。今日のちょっと難しいんだ」
「ん、いいよ」
「……ね、何で今、仁兄は叩かれてたの? あき兄が叩くなんて、見たことない。何したの、仁兄」
「……別に。コーヒーいれてくる。 彰、 飲む?」
「……飲む」
「オレも飲む!」
「……和己はココアな」
くすっと笑って、仁が部屋を出ていく。
「……ねー、仁兄はなんで 彰って呼ぶの?」
「……さあ? わかんないなー……」
「……オレも彰って呼んだ方がいいの??」
無邪気な笑顔と質問に、くすっと笑ってしまう。
「仁がそう呼ぶのも、しばらく飽きるまでだろうから。――――……和己は、今のまま呼んで?」
「えー、そうなのー?」
「うん。そうだよ」
「……ん、分かった。ねね、あき兄、これなんだけどさー」
言いながら、算数のドリルを持って、見せに来る。
可愛いなあ、和己。
……少し前までは、仁も可愛かったんだけどな……。
あきら、て呼んだ日から――――……。
ずっと、好き――――って……。
もう、意味わかんないし。
何回も何回も、好きだって。
もう――――……流してるのも、きついな。
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