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第14話「わからない」*彰

 仁と少し話して、そのままになったまま、また少し時が経った。  麻友と別れた事について、ようやく誰にも何も言われなくなってきた頃。  寛人に、いきなり、言われた。 「仁のこと、どーした?」 「――――……」  お昼休み、食事を食べ終わって、ぼんやりしてた時。  あれから一度も、その話、してこなかったのに。 「……何で、急に」 「いや。 今ちょうど他に誰も居ないし。思い出したから」 「……あんまり、二人になるタイミングがないから…… 変わってない」 「――――……あの後、話した?」 「……少し話したけど――――……」 「……キスされた?」 「………」 「されたら、ちゃんと拒んでる?」 「――――………拒んでるけど……」 「拒んでもキスされるとかって。 そもそもちゃんと拒んでねえんだと思うけど」 「――――……」  黙ったオレに、寛人は声のトーンを更に低くした。 「……別にさ。ほんとの兄弟じゃねーし。……ていうか、オレ的には、そこもどうでもいいけど。……仁に応えたいなら、そうすりゃいいと思うけど」 「……寛人って、なんか、許容範囲、広すぎない?」 「……そうか? ていうか、オレは、お前にあわせてんだけど」 「あわせてる?」 「お前が、そうしたいなら、いいんじゃねえのって言ってんの」 「――――……そうしたいなんて、言ってないじゃん」 「……だってさ、普通嫌だと思うぜ。いくら可愛い弟だって」 「――――……」 「お前の、仁に対しての許容範囲が広すぎるんだよ」  もうなんか、自分が良く分からない部分まで、見透かしてるみたいに話す親友の言葉が痛くて、机にぺちゃんこにつぶれる。 「――――……でも、これに関しては……やっぱり無理だと思う……」 「ふーん……」 「………未来、見えないもん……」 「――――……まあ、言いたいことは分かるけどな」  ふかーい、ため息をつく。 「……あ。噂をすれば。彰、下見てみ」 「――――……?」  窓から見下ろすと、仁が女の子三人に囲まれて歩いていた。  仁の足は前を向いてて、女子三人の向きは、皆、仁に向かってる。まあ、いつも通り、まとわりつかれてる、て感じかな。 「ほんと、あいつ、モテるな――――……まあ、モテるか」 「――――……そうだ、ね」 「……なのに、お前がいいって。 ……よくわかんねーな。良い兄貴でいいじゃんかなあ? そういう対象にしちまうって、何でなんだろうな」 「……オレが聞きたい」  その瞬間。  何だか、すごく面倒くさそうな顔をしながら、仁が、急にこっちを振り仰いだ。ばっちり目が合ってしまった。オレと目が合った瞬間。ふ、と仁が笑った。一瞬前まで、ものすごく嫌そうな顔を、してたのに。  仁のその笑顔を見て、女の子達も、ぱっとこっちを見上げる。思わず、オレは、窓から引っ込んだ。そしてそのまま、机にまた突っ伏す。 「――――………つかさあ」  その光景を、すぐ近くで見てた、寛人は。 「……諦めて、受け入れれば?」 「それは……無理」  オレが言うと、寛人はいよいよ首を傾げた。 「……何で無理なの?――――……たまたま、親同士が再婚した、他人じゃんか」 「……もう、十年以上も兄弟なんだよ」 「つか、オレには、あいつが、諦めるとは思えないけどな。だって、あいつ、今、視線を感じたとかじゃねーだろ。 ここが、彰の教室だから、見たって感じじゃん。いつも見てんのか……? ほんと、執着がすごすぎて、オレには、わからねえなー……」 「……オレにも分かんないよ」  はあ。  ――――…… ほんとに。  どうして――――……仁は、オレのこと、好きなんて、思うんだろ。  ただ好きなのと――――…… キスしたりするのとって、  重ならないよな。  仁は、兄としては、見てなかったってこと?  ――――……もうほんと……分かんないな。

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